第21話
早速制作だ! 屋敷に戻ろうとしたけどふと足を止めてもう一度パラパラめくる。
魔法陣は精緻だが、発動する内容は非常にシンプル。正直言って苦労と結果が全く釣り合わない。
「……因みに聞くんだけど、魔道具の本ってこれだけ?」
「いくつかあるらしいですが、リック様が手に入れられるのは恐らくそれだけです」
「他の人なら他の本も手に入れられるって事?」
「ええ。王都にある魔道具職人を養成する機関に籍を置けば手に入るそうですので、王都に足を運び、どの程度学べばよいのか分かりませんが――」
「それ以上の説明は良いよ。行く気は微塵もないから」
学校なんて面倒しかないような場所に行くくらいならこのオンボロでも十分だ。
見た所随分と基本的な事しか書いてないっぽいが、手掛かりが0と1じゃあ絶対的な違いがあるし、これ以上の知識が欲しくなったら儲けに余裕が出てくる10年後20年後に魔道具を買って分解すればいくらでも知る事が出来るだろう。
「ははは。相変わらずぐーたらでしたかな? それがお好きなようですね。それだけの魔法の才があれば宮廷魔導士も夢ではないでしょうに」
「ぐーたらして生きる事は俺が生まれた意味そのものと言っても良いくらい大切な事だから。特にこれ以上用事が無いんだったら早速魔道具作ってみたいんだけど大丈夫?」
「構いません。この後でしたらエレナ様に衣類をご覧いただく予定ですので」
「分かった。じゃあねー」
さっそうとレイと分かれ、速攻で自室に飛び込み本を開く。
「まずは着火の魔道具から作ってみっか」
この本によると、魔法陣を刻むのは何でもいいみたいだが、さすがに火の魔道具を作るってのに木材を使うのはそれ自体が燃え尽きる未来しか見えないんで、こういう時のために周囲の山々からコツコツ集めていた鉄を亜空間から取り出す。
「えーっとなになに……」
魔法陣はある程度サイズの調整が可能みたいだけど、陣が歪んでたり記号が間違ってたりするとうんともすんとも言わないのか。暴発の危険は……この本を見る限りは大丈夫っぽいけど、一応部屋を結界魔法で覆って安全に配慮しておこう。
手始めに魔法陣を描くらしいんだけど、それにはどうやら魔石の粉末を溶かした魔力インクなる物を用いるらしいがそんなものはある訳ない。
字面から、魔力があればいいんじゃないかなって事でとりあえず土魔法を駆使して本に書いてある通りに溝を掘って、そこに魔石の粉末を詰め込んでみる。
この魔石は、村から少し離れた場所に生息するスライムとキノキノコとウサギから採取できる小さい奴をいくらか融通してもらった物を使ってる。
一応インクもあるんで作ろうと思えば作れるけど、結構時間がかかるっぽいみたいだし、鉄製品にインクで魔法陣描くって無理っしょ。駄目だったらそれで試せばいい。
「どれどれ」
特に問題なく完成したんで、試しに軽く魔力を流してみると、数秒の間をおいて陣の中央に火が灯った。灯ったんだけど、火が安定しないな。大きくなったり小さくなったりするのは使用者の観点から見ても不良品と言わざるを得ない。
「うーん……うん?」
なにが原因なんだろうと鑑定魔法を使ってみると、キッチリ不良品と表示され、ついでに魔力の流れが不均一と出たので改めて火を出してみると確かに魔力が多く流れぎてる場所があったり逆にほとんど流れてない場所があったりと酷い有様だ。
原因は言わずもがな。魔石の粉末だね。
亜空間から再び近隣魔物の魔石を取り出してじっと確認すると、微量ながら含有魔力に差がある。これが今回の不均一につながったんだろう。
ならばこれを均一にすれば問題なく着火の魔法陣が作成できるようになるだろうと、スライムの魔石だけで作った粉末で造り直してみたけど、やはり流れが不均一でさっきよりはマシだけど不良品という結果が。
「案外難しいな」
同じ魔石だけを使っても駄目となるとどうしたものかな。
そう言えば魔力インクって物があったか。あれと粉末魔石の違いってなんじゃろか。液体に魔力を溶かす必要がある? もしそうなら別にインクでなくてもいいんじゃないか?
「よし。やってみるか」
粉末魔石を水魔法の中に放り込み、振動させたり超高速回転させたりしてみると、無色透明だった水球が紫色に染まり始めた。
それから20分ほどかけて魔力をたっぷりと吸い込んだサッカーボール大の水球は真紫の毒々しい色に。とりあえずこれを彫った溝の中に流し込んでぴっちり蓋をしたはいいけど、肝心の出力部分をどうしようか。
液体をむき出しにしたらそこから流れ出る。かと言って触れてないと魔力が通せない。この一部だけ粉末魔石を――いや、この場合ならその部分を魔石を板状に切ってそれで塞ぐのがいいかもしれん。
「よし完成ー」
早速板状魔石に触れて魔力を流してみると、さっきまでとは比べ物にならないほどの火力が非常に安定した状態で点った。
「うん。イイ感じだね」
とりあえず問題が解消された。鑑定魔法でも一級品のお墨付きだ。
「リック様。ちょと入ても大丈夫ネ?」
「うん? 別に大丈夫だよー」
次にどの魔道具を作ろうかなーとウキウキしてるところに、何故かルッツがやって来た。その背後にはレイも一緒で手には小さな瓶がある。
「なんか用?」
「魔道具の本、受け取た聞いたヨ。でも渡す物があたの忘れてたから届けに来たネ」
「渡す物ってその瓶だよね? 重要なの?」
「魔力インクネ。これないと魔道具……動……いてるネ」
「もうお作りになられたのですか!? 魔力インクもなしにどうやって……」
「ちょっと苦労したけどね」
こんなに苦労したのは魔法を使えるようになって魔力を増やす事に熱中していたあの時以来だ。まぁ、もう作り方は大体わかったんで、後は便利な魔道具を次々作ってぐーたら生活にたどり着くのだ。
「普通、こんな短時間で魔道具作れないヨ。相変わらずやる事が規格外ネ」
「そんなのはどうでもいいんだよ。それよりも着火の魔道具作ったんだけど、大きさってこれで合ってるの?」
完成した魔道具は屋台で見かける鉄板サイズ。でも火力はしょぼい。
なのでこれが魔道具かどうかの確証が欲しい。
「そうネ。同じのが馬車に置いてあるヨ」
「間違っておりませんね。まぁ、火力はかなり大きいですが、まごう事無き着火の魔道具でございます」
「……そうなんだ」
マジかぁ……こんな無駄にデカいのを使ってわざわざ着火するのか。使えない事は無いけどエレナが使うって事を考えるとかなりデカい。元・冒険者だから使い慣れてるだろうけど、ぐーたらの観点で言えばもっと小型で使いやすい方が言いに決まってる。
「どうやったか知らないけど……要るネ?」
「一応貰っとこうかな」
魔力インクと俺の魔力水とではどう違うのか。まぁ、すでに結果は出てるようなもんかもしれないけど、検証というのは大事だ。
「じゃあ失礼するネ」
「申し訳ございませんでした」
さて……2人が去ったので今度はサイズダウンの実験といこう。竈にこれを入れるとなると造り直す必要がある。それでも別にいいけど自分の限界に挑戦したいと思うのは男の性だろう。
まずは半分――あっさり成功。
さらにもう半分――若干火の勢いが弱くなったかな? でも火種としては十分使えるんで成功としておこう。
「さて、じゃあ本番といこうか」
やっぱ火おこしと言えば、みんなご存じのチャッ〇マ~ン♪ だろう。勿論あんな高性能な物が作れはしないが、形状くらいならマネできる。
まずは鉄を長い棒に変形させ、先端を魔法陣が描けるギリギリのサイズにする。形は何となく焼きごてっぽくなったけど、これでも十分すぎるほどのサイズダウンだと信じたい。
次に、持ち手となる部分に魔石の板を張り付けて魔力水を陣の溝から板までつなげれば完成だ。
「どれどれ――」
早速魔力を流して着火してみると、最初に作った奴くらいの火力に落ち着いた。これなら、わざわざ馬鹿でかい板を竈に放り込むより遥かに簡単で取り回しがいい着火の魔道具が完成したって事でいいだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます