第10話
「おーいリックー。あーさーだーぞー! おきろー!」
「……ウルサイ」
この声はリンか。相変わらず朝っぱらから元気いっぱいだな。
のそのそとベッドから這い出て窓を開けてみると、すぐ眼下には手を振ってるリンが居て、少し離れた場所ではヴォルフとアリアが訓練の域を超えた速度でやり取りをしてるのが見える。ウチの家族は誰もが朝が早い。俺が決して遅い訳じゃない事をここに宣言する。
「なに?」
「なんだよまだ寝てたのか? アレザのねーちゃんがリックに店に来いって伝えてくれってよ」
試作を渡して3日。どうやらおばばの調薬が終わったらしい。まぁ、実際は一日かそこらで終わってただろうけど、薬効に影響が無いかとかを調べてくれてたんだろう。あのおばばだったらそのくらいの事は普通にやってのける。
しかし――
「……もう少し時間が経ってからでも良かったんじゃない?」
別に朝一に来る必要はどこにもない。俺の一日の動きは家族はおろか村人のほとんどがあと数時間は起きないと理解してる。それほどまでに俺のぐーたらぶりは広まってくれたからな。こんな時間に伝言してきたところで行く気はさらさらないし、そもそも朝飯の時間があるのに屋敷を出るなど家族が許すはずがない。
「おれが忘れるから今言った! じゃあなー!」
用件は終わったとばかりに走り去った。何だってこの村の住人は朝からあれほど元気なのかね。
「ふあ……っ。半端な時間だしなぁ……」
二度寝すればおそらく朝食を逃す――事にはならないだろうけど、アリアかエレナによる熱烈な起床が待ってるだろうから仕方なくこのままリビングに向かうとしますかね。
「おはよー」
リビングに顔を出すと、そこではやっぱりエレナとサミィが既に起きて談笑をしてた。
「うふふー。大きな声だったものねー。明日からも頼んじゃおうかしらー」
「そうしたらわざわざ起こさなくて済むかもしれないね」
「勘弁してよ。俺としてはいつもの時間に起きるのすらしんどいって言うのに」
「ボクとしてはなぜあれだけ寝られるのか不思議で仕方ないけどね。魔法使いはそうなのですか?」
「どうかしらー? ずーっとグレッグと一緒にいるけど、リックほどよく寝るような人じゃないわねー」
「趣味みたいなもんだから深刻に考えなくていいよ」
サミィの問いにエレナは首を傾げる。今世でよく寝るのは、おそらく前世でブラック企業で働いて削ってきた分を取り戻すためだろうと俺は考えてる。違ったとしても原因は不明だし、何より俺がそれ程困ってないからどうでもいい。
程なく朝食を作ると言う事なので、今日は俺もキッチンに。前世でもある程度料理が出来たし、少ない食材でなんか美味い料理が作れないかと試行錯誤してるからね。エレナの体調がすぐれない時なんかは俺が飯を作る事もある。他の家族は誰一人出来ないんだけどな。
「それじゃあ食材を任せちゃうわねー」
「はーい」
まずは水洗い。これは水魔法で食材が入る大きさの水球に放り込み、超音波振動で細部の汚れまでを取り除き、最後に風魔法で要求通りのサイズに切って鍋にポイ。ついでに竈に火をつける。
「リックが居ると便利でいいわねー」
「せめて楽って言ってくれないかな?」
「そうだったわねー。それよりも、そろそろルッツ君に来てもらわないと困っちゃうわねー」
「そうだね」
ルッツが来るのは月に一回だが、冬になると途中の道が閉ざされてしまうのでそうなる前は随分と食料を積んできてくれるおかげで何とかなってるとはいえ、我が家の食材は残り僅か。一応小麦だけは大量にあるんで、腹を膨らますだけならばなんとかなるけどさすがにそれはキッツイ。
時期的にはそろそろ来てくれるはずなんだが、メールはないけど手紙は高価。王都とかならまだしもこんな田舎じゃ大抵が口約束なのでいつ反故にされるかは分からんけれど、奴には俺の用意する商品は魅力的だろうからそんな事にはならんだろう。
何せそれだけで店が建ったと聞いてる。それがゼロになったらどうなるかなんて想像しやすい。
「それじゃあそろそろ準備しておこうかな」
「いったいどこからあんなものを持ってきてるのかしらー?」
「家族でも秘密だよ」
まぁ、普通に転移で秘密の場所に行ってるだけで別に何か特別な事をしてる訳じゃないんだけどな。
とはいえそんな便利な事が出来ると知られれば、冬の間も買い出しのために働かされるし、何よりルッツの代わりをさせられる。それは勘弁だ。
「まぁいいわー。それじゃあ運んじゃうわねー」
「俺も行くー」
って訳で今日も硬めのパンと具の少ない塩スープを食べる。これともあと数日もすればおさらばって考えるとようやくかと思う反面、基本塩味なんで具材が増えた所でとため息をつきたくなる自分が居る。やっぱ日本人なら醤油・味噌は必須だなぁ……。それでなくとも出汁くらいは欲しいね。今度ルッツに昆布でも頼んでみよう。
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