第6話

「よし。イイ感じだね」


 あれから一週間。裏庭で栽培してた甜菜がようやく収穫できるようになったので、今日は農作業と砂糖精製をしようと思います。

 まぁ、言っておくけどちゃんと村の家々を回って畑に肥料を注入済みだし、後払いで報酬を払うという条件で村の子供という労働力もちゃんと確保済みでございます。俺がわざわざ畑から引っこ抜いて泥汚れを落とすなんて面倒じゃん?


「えー。それでは君達にはそこの畑になってる野菜を抜いて泥汚れを落としてもらいまーす」

「なーリック。あれってなんなんだ?」

「砂糖になる野菜――のはず」

「はず?」

「ルッツから聞いた話だからね」

「「「へー」」」


 ルッツと言うのは、月に一回この村にやって来る商人の名前。なんでもヴォルフと傭兵時代からの知り合いらしく、ほとんど儲けにならない時からわざわざ足を運んでくれてたらしく、村人達には随分と好意的に受け止められている。


「そんな訳で、実際に砂糖がとれたら報酬として渡すから頑張ってね」

「リックはやんないの?」

「俺がそんな面倒な事をやると思う?」

「「「思わなーい」」」

「だから君達を招集したのだよ。砂糖欲しいだろ?」

「「「ほしーい!」」」

「じゃあ頑張ってねー」


 よし。これで砂糖をダシに自由な時間を得る事が出来た。この隙にぐっすり寝たいところだけど、畑も広くないしすぐに砂糖を作る準備に取り掛かる。

 記憶を頼りに土魔法でささっと道具一式創り上げ、次々運ばれてくる甜菜を風魔法で細かく切り刻んでは火魔法で温めたぬるま湯の鍋の中に突っ込んでいく。


「りっくさまー。おわったよー」

「うーい」

「次はなにするんだ?」

「砂糖を取り出します」


 糖分がお湯に溶け出すまで普通であればおおよそ一時間と言った所であろうが、俺の魔法にかかればあっという間に――って、それが出来るなら別にぬるま湯に付けなくても良かったんじゃね? うーわー。無駄な事をしたわぁ……。


「りっくにーちゃん。どーしたんだ?」

「リックが変なのはいつもの事だろ。それよりも砂糖だよ砂糖。さっさと作れよ」

「わーってるよ。ったく……」


 水魔法で甜菜から糖分のみを絞り出し、それが溶けだした水分からさらに糖分だけを取り出せば、あっという間に甜菜糖の完成でござい。

 テニスコート大の畑で取れた甜菜で砂糖になったのは3キロほど。時間をかけて育てた割には少ないかな。まぁ、実験だしこんなモンだろう。


「これがさとー?」

「まっしろー」

「おいリック。知ってる砂糖と違うぞ?」

「一応砂糖のはずだけど、味見してみる?」

「……お前がしろよ」

「そうだね」


 この世界、一般的な砂糖は精製が未熟なのかルッツが持って来る砂糖は随分と茶色い――と言うか黒糖に近い色合いだ。それはそれで需要があったりするからいいんだろうけど、日本人として真っ白な砂糖しか知らん俺からするとちょいと癖があってあんま好きじゃないんだよね。

 それと比べると、やっぱ真っ白な砂糖は邪魔な雑味もないし単純な甘さが舌の上で広がるだけで臭いも無いのがいいね。


「どうなんだ?」

「うん? ちゃんと甘いよ」

「ならおれ達も味見だー!」


 リンの合図でわーっとガキ連中が砂糖に群がり、口々に甘い甘いと口にする。

 さて……このまま砂糖としてルッツに売り飛ばすのもいい金額になりそうだけど、やっぱ原材料をそのまま提出するより加工品にした方がいくらか利益が上がるのだけど、そうするだけの材料が無い。何とか出来て飴くらいだけど、砂糖とさして価値は変わらん――いや、価値をあげられない事も無いか……。


「ほら、いつまでも砂糖舐めてないでどいたどいた」


 魔法で全員の首根っこを掴んで砂糖から強引に引きはがし、土魔法で作った小瓶に均等に砂糖を詰め込んでそれぞれに押し付ける。半分くらい残ったそれは全部俺のモンだ。


「なぁリック……こっちの取り分少なくないか?」

「んー? ちょっと試したい事があってね。悪いけど多目にもらう」

「なんだそれー」

「おーぼーだー」

「わっはっは。貴族とは得てしてそういう存在だ――と言いたいところだが、母さんが楽しみにしてるからね。家庭の安寧のために犠牲になってくれたまへ」


 事前にエレナに砂糖が出来る事は伝えてるからね。それなのに提出した量がちょびっとだったりしたら露骨に怪しまれるし、そうなると今後もやりにくくなる。自由気ままにやらかすには味方を増やすに越した事は無い。

 さて……ガキ連中を無事追い返し、砂糖を手にキッチンに。


「あらー? ご飯ならまだよー?」

「そこまでお腹空いてないって。それよりもようやく砂糖が手に入ったから持って来たよ」

「あらあらー。本当に砂糖が出来たのねー。あらー? 随分と白いのねー」

「魔法でやったからかな。一応味見お願い」

「はいはーい」


 おっとりとした動きでエレナが砂糖を一口。ここで量について言及しちゃあいけない。そこそことんでもない量を放り込んでたんで思わずマジかよ! ってツッコミしかけたけどグッとこらえた。


「ど、どう?」

「……そうねー。余計な味がしない、純粋な甘さだけが舌の上に広がるいい砂糖ねー」

「使う?」

「そうねー……これは使うより売る方がいいと思うわねー」


 エレナによると、白い砂糖は無い訳じゃないがここまで真っ白なのは見た事が無いらしく、売りに出せば話題性と希少性が相まって高位貴族が見栄のためにこぞって購入したがるんだとか。

 とはいえ、やはりそのまんま売るより加工した方が利益率が高いのは自然の摂理。その事を告げるといったい何をするのかと少しいぶかしげな表情をしたんで、丁度良いからエレナには実験に付き合ってもらうとしますかね。

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