第5話

「ズルいズルいズルいー! おれも魔法使いになりたいーっ!」

「無理だって言ってるだろ。いい加減諦めろって」


 面倒臭い……。そもそも魔力量を増やす事や効率的な技術向上に関してある程度教える事は出来るが、どうやったら魔法が使えるかなんて事については俺はおろかヴォルフも全く知らないし。

 まぁ、全人類の1割程度しか魔法使いが居ないって事を考えると、後天的に魔法使いになる事は出来ないんだろうと考えるのが妥当だろうよ。


「なんとかしろよー! おまえ貴族だろー!」


 とはいえ、こんな理論的な事を説明したってリンは納得しない。そうじゃないからこうしていつまでもわがままを言い続けるからマジで子供って面倒臭い。


「無茶言うな。魔法使いってのは生まれた瞬間に決まるんだって父さんが言ってたぞ」

「なんでそんなことが分かんだよ。おれの中に隠れた才能があるかもしんないだろ!」

「ないない」


 そもそも後天的に魔法使いになれるなら誰だってなろうと躍起になる。そうならざるを得なかったくらいこの国は窮地に立ってたんだ。多少邪法だろうと手を染めなくちゃいけないくらいに追い込まれてたのにそれが無いって事は、無理って事だ。


「むきー! いいから調べてみろよ!」

「はいはい……」


 といっても調べ方なんてない。

 魔力がある人間は常時魔力を纏ってるんで、魔法使い同士であれば視界に入っただけで理解できる。

 その法則に当てはめれば、リンには一ミリも魔力が無いんだがそれを説明して納得するような奴じゃないんで、とりあえずそれっぽい事をしようと手を握って――


「な、なんだよ急に……」

「体内に魔力を流そうとしただけだよ。怖いならやめるけど?」

「ここ、怖がってなんてない! やるならさっさとやれよ」

「はいはい……」


 さて……とりあえず魔力でも流してみるか。


「なんか感じる?」

「と、当然だろ。おれには魔法の才能が――」

「まだ何もしてないけどね」

「……」

「痛ッ!? 何故殴るかな」

「うっせえ! さっさとやれ!」

「理不尽だ」


 さて……調べるとは言ったけどどうすればいいのかね。このまま一分くらいじっとしてても問題なさそうだけど、後から何か言われても嫌だからちょーっと魔力でも流してみるか。

 適当に魔力を流してみるも、全くと言っていいほど反応が無い。これがヴォルフであれば泥の中に手を突っ込んでいくような妙な感覚があって、知り合いのエルフの場合は粘土に突っ込んでいくような感覚がある。

 つまり魔力はゼロって訳だ。


「はいおしまい」

「どうだった?」

「魔力ナシ」

「なんでだよ!」

「知らない。それよりどっか行くんじゃなかったの?」

「リンが公園行こうって」

「じゃ送ってくよ。乗りねぇ乗りねぇ」


 椅子を子供三人が乗れる板に作り替え、即出発。

 リンであれば高速でもビビったりしないけど、シグは怖がりなので駆け足程度の速度で村の中を突っ切る。


「……魔法って便利だな」

「だよね。いちいち歩かなくて済むのが最高だよ」


 決して広い訳じゃないが、子供の足じゃあ移動に苦労するし、何より時間がかかる。面倒な事をパパっと終わらせ、残りの時間をぐーたらするために捧げると誓った俺からすれば時間の無駄は極力省きたいからね。


「おれが父ちゃんに聞いた話だと、普通は魔物倒したりするんだろ」

「必要なら俺だってやるけど、こんな場所に居る魔物なんて素手の大人でも勝てる程度じゃん」


 一応こんな場所でも魔物はいる。居るんだけど正直雑魚ばかり。

 俺と同じサイズのキノコのキノキノコ。不味くはないが美味くもない。

 サッカーボール大のスライム。一応トイレに一匹欲しい益ある魔物。

 土色の兎。頭に角が生えてる。肉は美味い。

 ここらに出るのはこんな感じで、特に土色の兎は村人にとっては新鮮な肉を得る唯一の機会なんで、一人か二人は村の外に出て捜索してる。まぁ、滅多に見つからないけどな。

 そんな弱い魔物しか出ないような僻地で魔法の出番なんてほとんどない。だからこうやって移動を楽にしたり土壌の改善したりにしか魔法を使わない。


「確かにそうだけどよぉ……」

「別に魔法が使えなくたって生きていけるよ?」

「でもあった方が便利なんだろ?」

「そりゃね」


 寒ければ火魔法で火を出せるし。

 暑ければ氷魔法で涼をとれる。

 歩くのが嫌ならこうして浮く事も出来る。まさに万能だけど、この恩恵に与れるのはほんの一部の人間だけで、大部分は暑い日は暑いまま。寒い日は火にあたるくらいしか対処法が無いが、こうして人が生活を営んでるって事は絶滅するほどじゃないって事だ。


「はーい到着ー」


 あっという間に公園に。まぁ、実際は年に一度の収穫の無事を祈っての祭りが行われる広場なんだけど、今じゃ滑り台やらジャングルジムなんかを土魔法の練習で作り、ぼそりと公園っぽいなと言ったばっかりに子供連中の間ではそれで通るようになった場所で、唯一の遊び場。


「よっし! 今日も訓練すっぞー!」


 そう言ってリンはアスレチックコースへ行き、シグは休憩所で本に没頭。

 さて……俺はどうするかな。

 公園で遊ぶって年でもないしな。


「……シグ。お昼前になったら起こして」

「ん。わかった」


 さて。今日はいい天気だからゆっくり寝るとしますかね。

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