第4話
「さーて……お仕事しますか」
アリアが風呂に入り、両親は……しばらくは寝室から出てこないだろう。今日は天気がいいんでこのまま昼までもうひと眠り――といきたいところだが、我が領地は絶賛人手不足に加えて栄養不足だ。
領地の7割以上が荒れ地。2割5分が馬鹿デカく険しい山脈。残ったのが我が村と畑。これが今のところ俺が豊富とまではいかないけど平均ちょい下くらいの作物がとれる安全地帯。
これが数年前までは開拓できた土地が1%くらいだったってんだから、個人の力にしちゃあ頑張った方だろ? まぁ、まだまだぐーたらするには足りなすぎるんでこれからも頑張りますけどね。
とはいえ屋敷から村までは俺の足で10分はかかる。体力的には十分踏破可能とはいえ、面倒は極力控えるのが俺の今の生き方。なので魔法の御厄介になろうじゃないかと土魔法で即席の椅子を作りそれに腰を下ろす。
「よ……っと」
次に無魔法で椅子を浮かせばあら不思議。あっという間に地球でも実現不可能な浮く椅子の完成だ。後はこれに乗って移動するのが俺の村での動き方である。
音もなく坂を下り、まっすぐ進むとあっという間に広大な領地――東京23区くらいの土地に唯一ある村へとやって来た。
大人と子ども合わせて全部で60人ほど。俺が生まれる前は200人ほどいたらしいんだけど、この状況に加えて夏は暑いし冬は凍えるような寒さが襲ってくる。そのおかげで毎年のように死者を出してしまい、結果として生き残ったのが現在の60人。これが現在のぐーたらライフを送るための人員。増加は歓迎だけど減少は見過ごせない。
そうして手を加えた結果、ボロボロだった家屋はひとつ残らず魔法で遮熱仕様の地球でも一般的な家屋にしたおかげでここ数年凍死する村人はいないし、用法容量を守った化学肥料は大地に活力を与えて農作物の収穫量と品質が向上。餓死するような事態も無くなった。
だがしかーし! 俺がぐーたらライフを送るにはまだまだ豊かさが足りない。なので今日も畑を飛び回るのだ。
「おーい」
「おー。リック様ですか。今日もご苦労様ですー」
第一村人発見。名前は覚えてないけど大事な村人だ。
「今年もいい感じ?」
「そうですな。リック様のお陰でここ最近は収穫量も品質も上がっとりますから、きっと豊作でしょう」
「ならいいけど、始めちゃって大丈夫?」
「いいですとも。その為にこうして畑の横で待機してたんですから」
「じゃあやっちゃいますか」
地面に手をついて土魔法を発動。魔力を化学物質に変化させて減った分を補充していくが、やりすぎると逆に育ちが悪くなるんでそこら辺は実験を重ねてある程度加減してある。
「こんなもんかな」
「ありがとうございます」
「いいっていいって。俺が大人になったら楽するためにやってる事だから」
作物が育たなければ税を納める事が出来ない。それが出来ないとくいっぱぐれる村人が出てきて餓死。そうなると労働力も無くなるし、何よりぐーたら出来なくなってしまう。それは由々しき事態だから、こうして畑に肥料を注入してんのよ。
「じゃあ次に行くから」
「ありがとうございまーす」
一件目の仕事が終わるとすぐに次に向かう。それをひと通り終わらせると大体一時間が経過し、消費した魔力は5%にもならない。始めた当初は魔力量も少なかったからコツコツコツコツ自転車操業のように1日一軒で頑張ってたなぁ。
それが一日2軒に増え3軒に増え、今や村中の畑を健康に保っても問題ないくらいになり、余った魔力で森を復活させようとしてみたり、コツコツと屋敷の庭で甜菜を育てたり、山脈を飛び回って使えそうな鉱石を魔法で掘り起こしたりと勝手気ままに暮らしてる。
その内、一番厄介なのが子供の世話だね。
「あー! リックがまた空飛んでる! ズルいぞお前ばっかり!」
「おはよー……」
この村には俺を除いて5人の子供がいる。因みに成人は15歳。
その中でも一番やかましくて問題児なのがリン。10歳。
一応女の子だが、こんな田舎じゃおしゃれする必要が無いとばかりに髪は短いし、男家庭で育ったせいで口は悪いしその影響でかなりのやんちゃ盛りで少年と形容するのが一番しっくりくるけど少女だ。
そのリンに腕を引っ張られるように一緒に居るのが同い年のシグ。
こっちは一応少年というカテゴリーに居るんだけど、中性的――と言うよりは少女に近いルックスをしてるのに加え、俺が将来に備えて時折開催してる学校もどきで文字を教えてから本を片時も離さないような勉強大好き少年になってしまい、健康的な小麦色のリンに対し、シグの肌は真っ白。それがまた女性らしさを強調してると言うかなんというか……。
「そんなデカい声出さなくても聞こえてるよ。農作業はどうしたのさ」
「終わった!」
「本当? リンがいっつも手伝わないってアルマさんから聞いてるけど」
「きょ、今日はちゃんとやったって。それに、兄貴たちが見張ってたから逃げらんなかったし……」
「逃げる気満々じゃん」
「うっせー! そんな事より魔法だよ魔法! お前ばっか使えるのズルいぞ! 教えろー!」
「まだ言ってんの? 無理だって言ってるじゃん」
リンは昔から魔法に強い憧れがあるらしく、こうして顔を合わせる度にズルいだの教えろだの言ってくるが、ヴォルフに聞いたけど魔法ってのは後天的に覚えられないらしいからな。こっちにはどうしようもないと何度も言ってるんだが一向に耳を貸さない。同じやり取りを何度も繰り返すのが面倒だからいい加減諦めて欲しいんだけどね。
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