勉強嫌いな俺のやる気スイッチ
仲仁へび(旧:離久)
第1話
うぉぉぉぉ!
やるぞぉぉぉぉ!
やったるどぉぉぉ!
俺は猛烈な勢いで、シャーペンをがりがり。
真っ白だったノートは、いつの間には、文字だらけに。
ちょっと前までは放課後なんて、だらだらするだけだったんだけどな。
俺は目覚めたのだ、
勉強の申し子になったのだ。
きっかけは、そう。
あの唐突な出会い!
俺はとうとう今年、中学三年生になった。
しかし、歳はとりたくないもんだ。
老人みたいな事を言ってるが、本心だ。
入学式を終えたばかりの俺は、はぁとため息をついた。
なぜなら憂鬱だからだ。
受験勉強が。
悪夢みたいな苦行が控えている事が。
話は変わるけど、俺には一個上の兄貴がいる。
その兄貴は、自分にあわない高校を受験したばっかりに、大変な思いをした。
何でそんな、頭のよさそうなとこ選んだし。
優秀な人間の中に、アホな人間がまざりに行くもんだろ。
結果、俺の兄貴は部屋の中にこもって、何十時間も勉強、勉強。
テレビも見ず、ゲームもせずに、テキストとにらめっこしているのを見ていたため、兄貴の部屋に近づくのが嫌になってしまった。
俺も同じ経験をしなくちゃいけないのか。
そう思うと、まともに中学三年生を頑張ろうという気が失せてくる。
だから、灰色の学生生活を想像するのは自然な成り行きだったと思う。
けれど、ある日沈んだ気持ちで学校を歩いていた時にその考えは変わった。
おっと、危ない!
廊下を歩いていたら、曲がり角からやってきた女の子とぶつかりそうになってしまった。
俺は彼女を気遣って声をかけたんだけど、その子がすごく可愛くて見とれてしまったのだ。
だから、気が付いたのだろう。
彼女が、後輩であるという事に。
俺の学校では、学年ごとに制服の色が違う。
そして、そんな後輩である少女は、手に大量のお受験用テキストを持っていたのだ。
その事実が気になって、初対面にもかかわらず、俺は話しかけていた。
すると、彼女にはどうしても叶えたい夢があるという事が分かった。
その夢を叶えるために、早すぎる受験勉強をしているのだとか。
立派な少女だった。
感心していた俺に彼女は言った。
「よかったら先輩、三年生はどんな事を習うのか少しでいいので教えてくださいませんか」
俺はたぶん「もちろん!」と即答したはずだ。
浮かれていたので、よく覚えてないけど。
灰色の学生生活? 退屈な受験勉強?
まとわりついていた憂鬱なイメージが一気にふきとんだ。
家に帰ったらさっそく猛勉強だ。
先輩として恥ずかしくない学力を身に着けておかないとな。
冒頭に戻る。
うぉぉぉぉ!
がんばるどぉぉぉ!
毎日放課後に勉強を教える、という約束を果たすために、俺は猛勉強の真っ最中。
そんな俺の部屋の前に尋ねて来たのは兄だ。
一足早く地獄から解放された兄。
受験の結果?
けっ。
まぐれで受かっただけだよ。あんなもん。
けっ、けっ。
「おうおうよくやってるじゃねーか。我が弟よ」
「うるせぇ、今はなしかけんな。頭の中から内容が飛ぶだろ」
「はいはい。じゃ、弟がかまってくんない事だし、彼女とでも遊ぶかねぇ」
この弟にして、この兄あり。
いや、逆か?
この兄にして、この弟あり。
結局うちのアホ兄貴が勉強に、精を出していたのは恋愛がらみだったってオチだ。
くそう。あのあの兄と同じ遺伝子と同じ血を共有してる俺は、まんまと同じ苦行に足を踏み入れちまったってわけだ。
もうやめてやるっ、こんな勉強。
俺は教科書を放り投げた。
すると、タイミングをみはからったかのようにスマホから着信音。
あっ、もしもし。
後輩ちゃんだ。
「えっと、今度の休みに一緒に図書館で勉強しない。迷惑かな?」
ぜんぜん、迷惑じゃないよぉ!
俺は泣きながら、放り投げた教科書を拾いにいった。
勉強嫌いな俺のやる気スイッチ 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます