6.
私は、お父さんと同じことをしたんだ。そんな私に、あの家にいられる資格なんて……。
そんな資格、ある訳ない――!
そう叫ぼうとしたけど、
「あのよう。何を考えてるか知らねえが、お前は誰がなんと言おうと、天正家長女・天正牡丹だ。
それから前にも言ったろう。生憎、俺達は一人じゃない。お前が一人で背負っているもん、俺達も一緒に背負ってやるって」
「男に二言はないんだぜ」と白い歯を覗かせながら、梅吉兄さんは変わらず機械混じりの声を上げる。
その隣で桜文兄さんが大きく腕を振り回し、私に向かって何やら投げてきた。飛んできたものを私はうまく両手でキャッチして、合わせた手を開いていくと……。
「これっ……!」
私が置いてきた家の鍵だ。私は、ぎゅっと力強く握り締める。
すると、また下の方から、「牡丹!」と私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「このバカが原因なら、俺が悪さしないよう見張っといてやる」
「おい、道松。バカって、もしかして俺のことか?」
「お前以外に誰がいるんだ」
「なんだとーっ!? 牡丹が家出したのは、道松が嫌になったからだろう!」
「ちょっと、二人とも。こんな時にまでケンカなんてしないでよ、もう!
とにかく牡丹、一度帰っておいで。ね?」
「藤助兄さんの言う通りです。話し合いましょう」
「牡丹ちゃん、藤助が作ったプリンがあるよ。一緒に食べよう」
「そうだよ、牡丹お姉ちゃん。満月もお姉ちゃんがいなくて、さみしがってるよ」
芒は、ぐいと抱いていた満月を掲げて見せる。
その隣でぶすっとした顔をした菊までもが、
「ただでさえ見た目がガキなのに、ガキみたいなことしてんじゃねーぞ」
と私を真っ直ぐに見つめて言う。
「ははっ、兄さん達ってば。相変わらずやることがめちゃくちゃでバカなんだから……」
本当、私のことなんか放って置けばいいのに。
……ううん、バカなのは私の方だ。その半分に……、そのたった半分に、だけど今までどれだけ救われてきたか。
すっかり忘れていたなんて。
みんなの声を遠くに聞きながら、私はぺたりとその場に座り込む。
本当は、私から行かなくちゃいけなかったのに。
私は逃げ出したのに。私だけが不純物で、足利家から逃げ出した時みたいに、自分から飛び出してきたのに。
私が天正家に来てまだ数カ月で、世間から見たら、きっと私達は偽物で、ごっこ遊びに見えるだろうけど。でも、それでも私にとっては、いつの間にか大切な場所になっていた。
私、手放したくない。壊したくない。今度こそ守りたい、あの場所を――……。
「本当にバカだ……」
私は崩れ落ちた姿勢のまま、もう一度、自分に言い聞かせるように。空気混じりの音ではあったけど、静かにそう繰り返させる。
それから立ち上がって玄関に向かうと、ドアノブをつかんで飛び出した。
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