第10戦:天正家に夏の嵐が舞い込んできた件について

1.

 ミーン、ミーンというセミの大合唱に包まれて、私は半ば無理矢理起こされる。朝から元気だなあ、うらやましいよ。


 夏休みに入って、毎日暑い日が続いている。それにしても今日は一段と暑い。


 私は写真の中のお母さんにあいさつをするとパジャマを脱ぎ、ワンピースへと着替える。今日は部活も休みだから一日ゆっくりできる。読書感想文の本を読んでしまおう。


 そんなことを考えながら部屋を出ようとすると、

「あれ、満月」

 部屋の前に満月がいた。私におしりを向けていた満月だけど、くるりとこちらを向いて。開けていたドアの隙間から、するりと体を滑り込ませるようにして私の部屋に侵入して来た。


 部屋の中をちょろちょろと歩き回っていた満月だけど窓際に行き、ピンチハンガーに干していた洗濯物をじっと見つめる。それから、その中のパンツをぱくんっと口でくわえて……。


「あっ……、ちょっと、満月!?」


 そのまま部屋の外に飛び出してしまった。


 随分と器用に取ったなあ……って、そうじゃなくて。返してよ、私のパンツ!


 私は必死に下着泥棒の満月を追う。階段を駆け降り、洗面所の前に差しかかった所で、ようやく満月に追いついて……。


「捕まえた!」


 全く、いたずらっこなんだから!


 私はがっしりと満月を両手で捕まえたまま、パンツを回収しようとしたけど。


「あれ、満月。私のパンツは?」


 さっきまでくわえてたよね? もう、どこにやったのよ!


 きょろきょろと辺りを見回すと、

「げっ、菊……!?」

 私のパンツは運が悪いことに、菊の足元に落ちていた。


 菊ってば、いつの間にいたの? 菊は私のパンツを拾い上げ、ジロジロと眺めている。


 よりにもよって菊に見られるなんて……。一生の不覚だ。


「……って、返してよ!」


 私は菊からパンツを奪い取るけど、菊はじとりと私を見つめ、

「誰もお前のおこちゃまパンツなんて興味ないっつーの」


「なっ……!?」


 おこちゃまパンツで悪かったわね……!


 私はパンツを握り締めながら、すたすたとその場から去って行く菊の背中を思い切りにらみつけてやる。


 もう、本当にやなやつ!!


 その上、これまた、いつの間にか背後にいた梅吉兄さんが眉尻を下げ、

「牡丹、俺がもっと大人っぽいパンツ買ってやろうか?」


「結構です!」


 梅吉兄さんってば、ほんっとーにデリカシーないんだから!!


 朝っぱらから最悪だ。今日はこれ以上のことが起こらないと良いけど。


 そう祈りながら私はパンツをしまいに部屋に戻って行った。

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