7.
「まさか幽霊の正体がタヌキだったなんて……」
「納得というか、拍子抜けというか」
兄さん達は芒に抱かれているタヌキを見つめながら、そろって深い息を吐き出させる。
「あのね、部屋に戻ったら、この子が藤助お兄ちゃんのカバンをあさってて。それで腕時計をくわえて逃げちゃったから追いかけてたの。
ほら、ちゃんとお兄ちゃんに謝ろうね」
そう芒がタヌキに話しかけると、タヌキは芒の言っていることを理解してるみたい。藤助兄さんの方を向き、「ごめんなさい」という芒の声に合わせ、タヌキはぺこりと頭を下げた。
その光景に藤助兄さんは、
「ははっ。まさかタヌキに謝られる日が来るなんて……」
口元を苦ませる。
こうして無事芒を見つけ、山の中から生還した私達は、旅館に戻って来るなり歩き回った疲れもあってか、そろって大きなあくびをした。
「さてと。もう遅いし、寝るとするか」
「おやすみ、牡丹」
そう言って兄さん達は、私一人を残して隣の部屋に行ってしまう。
さてと、私も寝よっと。
布団に横になろうとしたけど、不意に背筋にひやりと悪寒が走った。なんだろう、寒気が止まらない。その瞬間、私は梅吉兄さんが語った怪談話を思い出してしまう。
だけど幽霊の正体は、あのタヌキだったんだもん。そうだよ。大体、幽霊なんている訳ないよね、幽霊なんて……。
✳︎
「なあ、牡丹。芒じゃなくて俺と一緒に寝ようよー。優しく抱き締めてやるからさー」
私は、
「結構です!」
断って、代わりに、ぎゅっと芒を抱き締める。
芒は、くるりと顔だけ私の方を向いて、
「牡丹お姉ちゃん、大丈夫だよ。幽霊が出ても僕がお姉ちゃんのこと守ってあげるからね」
「ありがとう、芒」
「なんだよー、牡丹まで幽霊が怖いなんて。ほら、俺の所においで。芒より俺の方が霊も寄って来ないぞ」
しつこい梅吉兄さんに、とうとう道松兄さんが、
「うるさい!」
叱責すると、梅吉兄さんの顔目がけて枕を投げつけた。見事顔面で枕を受け止めた梅吉兄さんは、お返しとばかり道松兄さんに枕を投げ返して……。
それを発端に、突如枕投げ大会が始まってしまった。
幽霊は怖いけど、でも、みんな一緒なら。それに、こんな風ににぎやかな夜は修学旅行みたいで、ちょっと楽しいなって。
そんなことを思っていると、私はいつの間にか幽霊のことなんてすっかり忘れて。気付かない内に、ぐっすりと眠りに就いていた。
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