8.

 テレビ収録から数日後――……。


「結局、いつまで経っても親父は出て来てくれねえなあ。今回の作戦は失敗したか」


 残念だったなと梅吉兄さんは、ひょうひょうとした声で告げる。


 そんな兄さんに、私は人が悪いと思わずにはいられない。


 だけど、それを口にする気力もない。代わりに、「はあ」と適当に答える。


「おーい、牡丹。聞いてるかー?」


「牡丹お姉ちゃんってば、この間からずっとこうなんだよね」


「もう、梅吉があんなウソ吐くからだろう。かわいそうに……」


「そもそもあんな映像を見せられたら、反って親父は出て来ないんじゃないか?」


「そうだよ。道松の言う通り、あれだけ敵意をむき出しにされてたら、父親だって名乗り出る度胸なんて。俺にはないな。逆効果だったんじゃない?」


 梅吉兄さんを非難してくれる、そんな藤助兄さんと道松兄さんの声に混じって、

「だまされるのがバカなんだよ」

という菊の悪口に私は反応する気にもなれない。


 本当、何もする気が起こらない。


「なんだよー。親父の収穫はゼロだったけど、代わりに賞品がもらえて良かったじゃないか……って、そういう藤助もしけた面をしてるじゃないか。せっかく夢にまで見た掃除機が手に入ったっていうに」


「だってさあ。見てよ、これ」


「なんだ、この段ボールの山は」


「テレビを見た人達が、なんだか勘違いしたみたいで。俺達が相当生活に苦労してると思ったのか、お米とか野菜とかテレビ局宛てに送ってくれたらしくて。

 おまけに梅吉の言ったことも本気にして、ファンレターみたいなものまでたくさん届いてるし」


「へえ、マジかよ。おっ、本当だ。全国津々浦々から来てるな。食料は取り敢えずもらっておけば?」


「やっぱりだましてるみたいで悪いよ」


 部屋の片隅に積み重ねられた段ボールの山を前に、藤助兄さんは表情を曇らせる。


 そんな兄さん同様、私も問題の段ボールを薄ぼんやりと眺め。お父さんとの夢の再会は、まだまだ先になりそうだと。


 あんなにも苦心したのにと割に合わない収穫に、一人乾いた息を吐き出した。

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