7.
「八十三、八十四、八十五、八十六……」
「おい、ちょっとまずくないか……?」
「うん。始めの頃に比べて、大分ペースが落ちてきてるよね」
「……八十九、九十! 牡丹、あと十人だぞ!」
あと十人ほどという所で私の呼吸はもう限界を迎えていて、頭はちっとも働かない。ただ目の前に現れた敵を機械的に処理しているだけだ。
竹刀を振る腕に力も入らなくなって、足はよろよろと覚束ない。
「牡丹お姉ちゃん、がんばれー!!」
「九十四、九十五……、ああっ、あと五人なのに……!」
「牡丹のやつ、さすがに限界そうだぞ」
「もう見てられないよ。ああっ、夢のサイクロン掃除機が……!」
「新品の射撃コート……!」
「釣り道具セット、欲しかったなあ」
「ノートパソコン、自腹で買いますか……」
「俺だってプロジェクターを手に入れて、ホームシアターを満喫する予定が……!
せっかくここまで扱ぎ付けたんだ。あきらめられるかよ……って、ん……、そうだっ!」
おぼろげな意識の中、「ぼたーんっ!!」と、梅吉兄さんの一際大きな声が私の鼓膜を震わせた。
兄さんは続けて、
「あんな所に俺達の親父がーっ!!」
と、とある方向を指差して叫ぶ。
刹那――。
私の中で何かが大きく脈打ち、ぶるぶると肩が微弱にも勝手に震え出す。
「ふっふっふっ……、この時をどんなに待ち望んでいたことか……。
今までの恨み、全てこの場で晴らしてやるわ、お父さん――っ!!」
気付いた時には、私一人だけがステージの上に立っていて。スタジオはしんと静まり返っていた。
一拍の間を置き――。
「み……、見事百人斬りを成し遂げました……。
チャレンジ成功、天正家、賞品獲得です!!」
そのアナウンスを合図にパーンッ! と甲高い音が鳴り響き、頭上から色とりどりの紙吹雪がひらひらと降って来た。
天正家の誰もがその紙の雨をかぶり、喜びに浸るけど。だけど私はそれ所じゃない。
「はあ、はあ、はっ……。
……うさん……、……、お父さん、どこっ!? 隠れてないで、さっさと出て来なさい!」
「へっ!? ちょっと、牡丹……?」
「どこ、どこにいるの!? 今日という今日こそ、積年の恨みをーっ!!」
「落ち着け、牡丹。さっきのはウソだ」
「へ……? ウソ……?」
「悪い、悪い。いやあ、お前のやる気を出させようと思ってな。親父の名前を出せば復活するんじゃないかと思ったが、予想通り的中だったぜ。おかげで効果抜群だったろう?」
へらへらと一抹の悪気もなく告げる梅吉兄さんに、私は返す言葉が浮かばない。全身から力が抜けていく。
紙吹雪が降り積もる中、私は一人へなへなと。しおれた花みたいに、いつまでもその場に座り込んだ。
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