6.

「よし、次でいよいよ最後だな! あとは牡丹、全てはお前に懸ってるぞ」


「あの。さり気なくプレッシャーをかけないでくれませんか?」


「なあに、大丈夫だって」


 梅吉兄さんは、けらけら笑いながら私の背中を叩く。


「さて、いよいよ次が最後のチャレンジです! 泣いても笑ってもこれが最後。このゲームをクリアできれば、賞品は見事天正家のみなさんのものとなります。

 果たして、勝利の女神は彼等に微笑んでくれるのでしょうか!? それでは天正家の最後のゲームはこちら、百人組手斬りです!」


「待て待て待ていっ!!」


「どうしたんだ、牡丹。素っ頓狂な声なんか出して」


「無理ですよ、百人組手なんて絶対に無理です!

 本当にこの番組の人達、私達を勝たせる気なんて微塵もありませんよ!?」


 絶対に無理だと私は声を荒げ、全身を使って非難する。


 だけど兄さん達は、

「無理でもなんでもやるしかないだろう」

 参加してないのは牡丹だけなんだから、と後を続ける。


「どうせ相手は番組側が急遽かき集めた素人集団だ。得意の剣道で牡丹の右に出るやつなんていないだろう。問題は人数だけだ」


「だからその人数が問題なんですよ。大体、この番組、生放送ですよね。百人組手なんて相当時間がかかるじゃないですか。

 三時間スペシャルってことは、六時から収録が始まってもうすぐ九時だから、どちらにしても、もう番組が終了する時間なんじゃ……」


「その点なら大丈夫です」

と、突然司会者が私達の間に顔を突き出し、

「みなさんのおかげで番組も大変盛り上がり、SNSのトレンドワードやインターネットの検索急上昇ワードに当番組のことが上がっていまして。最高視聴率も出るのではないかと予想され、上からのGOサインで放送延長が決定しましたから」


「これで心置きなく臨めますね」けろりと述べる司会者に、数字の奴隷めっ……!! 私は心の中で思い切り叫んだ。


「百人組手なんて絶対に無理ですよー」


「おい、おい。やる前からあきらめるなよ。

 いいか、牡丹。ものは考えようだ。一秒でも長く画面に映った方が、親父の目に留まる可能性も高まるだろう」


「それはそうですが、でも……」


「それに、ほら……」


「牡丹お姉ちゃん……!」


「牡丹……!」


「ひっ!? 芒に藤助兄さん……!」


「あの目を見ながら同じことが言えるか?」


 芒と藤助兄さんは、無垢な瞳で私を見つめてくる。


 ……やるしかない。


 私は意を決すると、重たい足を引きずるようにして特設ステージへと上がって行った。


「ルールは簡単。一人ずつ挑戦者に向かって攻撃していくので、竹刀で相手の体のどこでもいいので当ててください。竹刀の先端には赤いインクが付いているので、当たったかどうかの目印となります。また、挑戦者は一度でも攻撃を受けたらその場で失格、チャレンジ失敗となります。

 それでは天正家の最後のチャレンジ、」


「スタートです!」という声とともに、早速一人目の刺客が私目がけて突っ込んで来る。


 私は竹刀を握り締め、相手の左肩目がけて思い切り突いた。すると敵の着ていたシャツの肩の部分に赤い染みができると同時、次の刺客が間髪入れずに飛び出して来る。私は勢いを殺さぬまま敵の手元を打ち払い、竹刀諸共大きく弾き飛ばした。


 天正家並びに番組のスタッフや観覧者達に見守られる中、私はペースを崩さないよう、なるべく手短に敵の肢体に竹刀を当てていく。


「……四十八、四十九、よし、五十! あと半分だぞ、牡丹!」


「はあ、はあっ……」


「牡丹お姉ちゃん、がんばれー!」


「がんばれ、牡丹! お前ならできる!」


 できるって、そう簡単に言われても……。


 正直……、いや、かなりきつい。敵の数も過半数を切ったけど、それでもまだ半分だ。


 だけど。


 女は度胸、根性よ! 世の中の理不尽になんか負けてたまるかっ……!


 額から浮かんでは流れ出てくる汗を手の甲で拭いながらも、私は倒しては次々と襲いかかって来る敵と対峙し続ける。

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