第8戦:天正家がテレビ収録で大暴れする件について
1.
朝独特の穏やかな陽射しに包まれながら、私は身支度を整えるとリビングに入る。
すると、
「おはよう、牡丹。牡丹にも、はい、カタログ」
部屋に入るなり藤助兄さんに分厚い冊子を手渡された。
「なんですか、これ。ええと、『幸せ家族策略』……?」
私は冊子の表紙をじろじろと眺める。
「あれ、知らない? 毎週土曜日のゴールデンタイムに放送されてる、視聴者参加型のバラエティ番組だよ。芒が応募したら当選したんだ」
「へえ、すごいですね。当選するなんて」
「芒は人一倍運が良いからね。でも、応募してたなんて知らなかったよ」
「あのね、みんなを驚かせようと思ったの」
芒は得意そうに、にこにこと笑いながら言った。
「それで、具体的にはどういう番組なんですか?」
私が訊ねると、藤助兄さんが丁寧に説明してくれる。
なんでも家族みんなで番組が用意したゲームに挑戦し、全部クリアできれば賞品がもらえるみたい。ちなみに私達が出演する回は生放送スペシャルなんだって。
「さっき渡した冊子が、もらえる賞品が載ってるカタログだよ。欲しいものを選んで」
「へえ、ゲームソフトから洋服に雑貨、それに家具や電化製品まで。なんでもそろってますね」
「賞品総額は一家族に付き百万円だって。一人分に換算したら大体十万円だね」
「十万円分ですか!?」
十万円――。
私のような庶民派高校生にとって、十万円は、とっても魅力的な響きだ。
だけど……。
「でも、そのためにはテレビに出ないといけないんですよね?」
私が問いかけると梅吉兄さんが、「そうに決まってるだろう」と言った後、
「なんだよ、牡丹。嫌なのか?」
「だって、テレビなんて恥ずかしいじゃないですか」
お金のためとは言え、ちょっとね。それに、出演してもゲームをクリアできないと賞品ももらえないしね。
私が渋っていると梅吉兄さんは、
「ちっ、ちっ、ちっ。甘いな、可愛い妹よ。今回、この番組に参加するのは、賞品欲しさだけじゃないんだなあ、これが」
「えっ。他に何かあるんですか?」
「なあに、よく考えてみろ。いいか、牡丹。お前は親父に会いたいんだよな?」
「えっ……? ええ、できることなら」
「だけど、俺達は親父のことを一切知らない。だが、もしかしたら親父は俺達を知ってるかもしれない。
そこで! だ。 テレビに出て俺達の存在をアピールして、逆に親父から名乗り出てもらうって作戦だ。
ちなみに、この方法なら宣伝費はタダ! 生きてるか、はたや日本にいるか定かではないが、この番組は全国ネット、ゴールデンタイムで視聴率も二桁と非常に高い。親父が見てないとも限らないだろう?」
「な、成程……!」
確かに梅吉兄さんの言う通り一理ある。もしこれでお父さんが見つかれば……! それこそ十万円以上の価値が私にはある。
私が、
「出ます!」
と宣言すると、
「牡丹はまだ親父のことをあきらめてなかったのか」
と道松兄さんが眉をひそめた。
「当たり前です! 私は絶対にお父さんを見つけ出して、この手でぶん殴ってやるんですからっ!!」
「まあ、まあ、牡丹よ、落ち着けって。親父ももちろん目的だが、賞品獲得の方も忘れるなよ。
と言う訳で、ささやかな幸福をゲットするために、家族一丸となってがんばろうじゃないか」
そう指揮を執る梅吉兄さんにならって、
「天正家、ファイトーッ!!」
というかけ声が、朝の静けさが残る家内に強かに響き渡った。
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