5.
あっという間に時は過ぎ――。
終業を告げるチャイムの音が校舎中へと鳴り響く。美竹は椅子から立ち上がると、ぐっと背筋を伸ばした。
「うーっ、やっと終わったー! さてと、これから部活か。
そう言えば牡丹は部活どうするの?」
「私は剣道部に入る予定なの」
「剣道部なら校舎裏に道場があって、そこで活動してるよ」
私は美竹と昇降口で別れると、彼女に教えてもらった通り校舎裏に回って行く。
だけど角を曲がると異様な光景が――、一人の女生徒の周りを数人の男子生徒が取り囲んでいる様が目に飛び込んで来た。
明らかに不審な様子に私の足はぴたりと止まる。肩下で綺麗に切りそろえられた黒髪の女生徒は、確か同じクラスの
すると男子生徒の一人が、甲斐さんの腕を強引に引っ張った。その途端、彼女の口から、
「いやっ……」
短い悲鳴がもれた。
「離してください!」
「いいじゃん、少しくらい付き合ってくれても」
「そーそー。減るもんじゃないんだからさー」
男子達の口から嘲笑が飛び交う中、甲斐さんの大きな瞳の端に薄らと涙が浮かび上がる。
それを目にした瞬間、気付けば私は無意識にも甲斐さんの前に躍り出ていて、
「あっ……、あの! 嫌がってるじゃないですか」
目の前の男子生徒達を思い切り睨み付けながら、そう言っていた。
「はあ? なんだよ、お前」
「あっ。コイツ、隣のクラスに転校して来た、あの天正家の新入りだぜ」
「えっ、天正だって? あの一家、まだ兄弟がいたのかよ」
「あの兄弟、男ばっかだったよな? ふうん、今度は女なんだ」
「でも悪いけど俺達、お前みたいなガキには興味ないからさ」
「そう、そう。ちんちくりんは引っ込んでろよ!」
「なっ……!」
ちんちくりんって、人が気にしてることをっ……!!
男子生徒達はじろじろと私のことを舐め回すように見回すと、再び笑い声を上げる。
私はその視線を振り払おうとしたけど、どうしてだかうまくいかない。嫌らしい音は一層と大きくなっていくばかりだ。それに従い、私の頭は自然と下がっていく。
笑い声に混ぜて男子達は、
「この兄弟、あと五人くらいいるんじゃないか?」
なんてバカにし出す始末だ。
確かにコイツ等の言うことは間違ってない。あの浮気性のお父さんのことだ。七人もの異母兄弟がいたんだもん、五人所かあと十人異母兄弟がいると言われても不思議じゃない。
結局、私はどこに行っても変わらないんだ。ううん、変われない。お父さんのせいで、一生こんな惨めな思いを繰り返すしか……。
ぎゅっと下唇を噛みしめると、唇から薄らとにじみ出た血が口の中に入り込んだ。
その不快な味に顔をゆがませているしかない。
そう思っていた私だけど、
「お楽しみの所、悪いんだけどさ。俺達のかわいい妹をいじめるの、やめてくんない――?」
この場とは不釣り合いな清涼な音に、私の意識は呼び戻された。
振り向けば、そこには――……。
「梅吉さんに藤助さん、桜文さんに道松さん。菖蒲さんに、それから菊まで……」
辺りにはいつの間にか天正家の面々がそろっていた。六人とも私の方に寄って来る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます