6.
梅吉さんは私の肩にぽんと手を乗せ、「大丈夫だったか?」そう訊いてくれた。
「お前らなあ、そんなんだからモテないんだぞ。女の子には優しく、これ、基本だからな。
大体よー、女の子に寄って集って恥ずかしくないのか? ったく、武士の風上にもおけねえなあ」
「武士の風上って、それはちょっと違うんじゃない? だけど女の子に乱暴するのは良くないよ」
「この外道達には少しばかりお灸をすえてやらねえとな」
じろりと瞳を鋭かせ、道松さんが男子生徒達を睨み付けると、男子生徒達は一瞬の内に顔を青くさせ、そそくさとその場から去ってしまう。
あまりにも呆気ない幕閉めに、梅吉さんはわざとらしく肩を竦め、
「ひゃー。怖い、怖い。何もそこまですることないだろう」
「おい。俺はまだ何もしてないぞ」
「その目付きの悪さだけで十分な破壊力になるんだよ」
「ああっ!? 俺の目付きのどこが悪いんだよ!」
ここでお約束とばかり額をくっ付け合わせる道松さんと梅吉さんの間に、やっぱり藤助さんがするりと入り込む。
すっかり調子を狂わされた道松さんだったけど、わざとらしく咳払いをすると、キッと眉を鋭かせて私を見つめ、
「それにしても、だ。いいか、牡丹。言いたいやつには好きなだけ言わせておけ。一々反応なんかするな」
「そうだよ、牡丹。確かにお父さんの浮気性のせいで、肩身が狭い思いをしてきたかもしれないけど……。でも、俺は今のこの生活が気に入ってるよ」
「そうだなあ。俺も好きだな、みんなのことが。もちろん牡丹ちゃんのことだって」
「郷に入れば郷に従えと言いますしね」
「大体よう、家族なんて呪いみたいなもんだ。いつの時代だって、子どもは親に振り回される。血を受け継ぐとともに、何かしら背負わされるもんだ。
けど、生憎俺達は一人じゃない。お前が一人で背負っているもの、俺達も一緒に背負ってやるよ。だから――」
「一人で抱え込むなよな」
その声は、普段の砕けた梅吉さんとは調子が違って。私の胸は、なぜか、きゅっと締め付けられた。
菊までもが、
「お前、ばっかじゃないの?」
「なっ、バカって……」
「お前みたいなやつが一人で生きていける訳ないだろう。子どもなんだよ。ただでさえ見た目が小学生なんだから、ガキみたいなことしてんじゃねえよ」
菊はそう言うと、すぐにつんとそっぽを向いた。口は悪いけど、もしかして菊も励ましてくれてるの? 案外良い所もあるんだな……。
そう思いながら私はぐるりとみんなのことを見回して、
「あ……、あの! ありがとう、兄さん達。その、助けてくれて……」
「ありがとう」ともう一度繰り返すと、兄さん達は顔を見合わせ、そして誰からともなく同時に噴き出した。
「なあに、当たり前だろう。だって、俺達は家族じゃないか!」
けらけらと笑いながら梅吉兄さんは私の背中を思い切り叩いた。その痛みに思わず目の端から薄っすらと涙が出た。
一人じゃない、か。うん……、確かに私は一人じゃない。私には半分だけど血の繋がった兄弟がいる。それは、なんて心強いんだろう。
梅吉兄さんの言った通り、お父さんが帰って来るまでの間、こういうのも悪くないかもしれない――……。
私はひりひりと痛む背中をこすりながら、一人真っ青な空を見上げた。
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