3.

 この家に来てから数日が経過するけど、この家の生活にはまだ慣れない。おまけに……。

 ちらりと菊と目が合うと、

「なにじろじろ見てんだよ、ブス!」


「なっ……、ぶ、ブスって……!」


 確かに私はアイドルみたいにかわいいって、自信を持って言える顔じゃないけど。でも、わざわざそんなことを言ってくるなんて、本当にやなやつ!


 菊はお人形みたいに整った外見とは反対に、性格に大いに問題がある。初めて天正家に来た日、菊との間にちょっとしたトラブルがあって。その時のことをまだ根に持っているのか、私はすっかり菊に嫌われている。


 菊は私と同い年だけど、私の方が誕生日が早いから、お姉さんなんだって。そのことも菊に嫌われている原因になっているみたい。


 だけど悔しいけど、顔のことでは菊にはとても敵わない。言い負かすことなんてできないよ。


 菊だけじゃなく他の兄弟達も、みんなそろって外見が良くて。本当にこの人達、私と血が繋がっているの? とは言っても半分だけではあるんだけど。それでも本当は間違いなんじゃないかなって思ってしまう。


 それだけじゃない。みんな、行方不明中のお父さんのことは、どうでもいいみたい。私と違って全く無関心で、私一人だけがお父さんのことで躍起になっている。


 だからこの家で私だけ、なんだか仲間外れみたい。だけど私は決めたんだ。決めたんだから。


 そう決意を固めていると、突然藤助さんが、

「あっ」

と声を上げた。


「そうだった。牡丹、洗濯するものがあったら、洗濯カゴの中に入れておけばいいからね。俺がするから」


「いえ。洗濯くらい自分でします」


 そう返すと藤助さんは、

「そう?」

と言った後、一寸考えた素振りを見せたけど、

「分かった」

と返事した。


 そう――。私は一人で生きていくって、生涯結婚もしないで、一人だけで生きていくって。お母さんが死んじゃったあの日から、そう心に決めている。だから掃除だって洗濯だって、なんだって自分のことは自分でするの。


 だけど、ふと視線を感じてそちらを向くと、怪訝な顔をした菊が私のことをじーっと見ていた。


 どうしたんだろう。そう思っていると菊は整った唇を開かせていき、

「お前、バカ?」

 またしても、そのきれいな唇から紡がれたとは思えないような言葉が出てきた。


「ちょっと、誰がバカよ!?」


「お前以外に誰がいるんだよ」


「なんで私がバカなのよ!」


 ブスは仕方ないけど、でも、バカは許せない!


 私のどこがバカなのよと訊いても、

「そういう所がだよ」

なんて言って、菊はちっとも教えてくれない。


 本当にやなやつ!


 そう思いながら目玉焼きにかじり付いていると藤助さんが、

「牡丹は今日から学校なんだよね」

と訊いてきた。


「学校で何かあったら俺達に言いなよ。俺と道松は三年二組で、梅吉と桜文は三組。菖蒲は二年一組で、菊は一年二組だから」


「みなさん、同じ学校なんですよね」


「うん。北総ほくそう高校は家から近いし、伝統も多い学校だからね。校風も自由をモットーにしてて生徒の自主性を尊重しているんだよ。

 ……っと、いけない。もうこんな時間か。ほら、みんな。そろそろ家を出ないと」


 カンカンと藤助さんがフライ返しでフライパンを叩く。その音に急かされながら、私は残っているものを一気に掻き込んだ。


 そして椅子から立ち上がると、ぞろぞろと先行く兄さん達に続いて、私もカバンを片手に部屋を後にした。

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