6.
「悪い、悪い。
人数が多いのも困りもんだよな、と梅吉さんは、けらけら笑う。それから隣に座っている仏頂面をした男の子に、
「ほら、菊。今日から仲間に加わった牡丹だ。お前と同い年だけど、誕生日は牡丹の方が早いから牡丹が姉になるな」
私のことを紹介したけど、でも、菊と呼ばれた男の子はむすっとした顔のまま、
「知るかよ、そんなこと」
つんとそっぽを向いた。
「そんなことって……」
ちょっと失礼じゃない?
むかっとしていると菊は、
「ったく、これだから女は。ぴーぴーうるせーんだよ。お前の幼稚な裸なんて興味ないっつーの。
大体、人が先に風呂に入ってたのに、そっちが後から勝手に入って来たんだろう」
確かに菊の言う通り後から入ったのは私だ。でも、先客がいたなんて知らなかったんだもん。仕方ないじゃない。
それに私は不本意ながらも謝ったのに。なのに菊ってば、ぶすっとしたままだ。
藤助さんが、
「でも、菊。今日、牡丹が来ることは伝えていたよね?」
訊ねると、
「そんなこと、どうでもいいし」
「なっ……、どうでもいいって……。
ちょっと、さっきから失礼じゃない? 私だって好きでこんな所に来たんじゃないんだから!」
怒り任せに思わず本音が出てしまうと、菊は私のことをじとりと見つめる。そして、
「だったら出てけばいいだろう」
氷みたいな瞳を揺らして、やっぱり冷たい声で言った。
「とにかく、これで本当に天正家全員集合だ。まあ、なんだ。牡丹も自分の家だと思って気楽に暮らせよ」
そう言ってくれる梅吉さんに、だけど私は、はあと乾いた返事しかできない。ちらりとうつろな瞳を揺らして天井を見上げた。
拝啓、天国にいるだろう、お母さん。
私はあなたが愛した人のせいで、たった一日で七人もの兄弟を得ました。
私、本当に大丈夫なの? この家で、うまくやっていけるの……?
私は考え込むけど、でも。やっぱり不安しかない。だからお母さん、どうか見守っていてください。
私は一人そう静かに、天国のお母さんへ報告した。
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