4.

 父親が同じ……。


 梅吉さんの言葉を聞いて私は大切なことを思い出した。どうして忘れていたんだろう。きっとイケメン達に圧倒されちゃったからだ。


 私は思わずその場に立ち上がって、

「あっ、あの! お父さんは!? 私とお母さんを捨てた、お父さんはどこに……!」


 いけない。私はお父さんに文句を言うため、ここに来たんだった。


 当初の目的を思い出すと私はきょろきょろと部屋の中を見回す。だけど目に入るのは同じ年頃くらいのイケメンばかりで、それらしい人物は見当たらない。


 それ所か私の腹違いのお兄さんらしい人達は、なぜか私を困ったような顔で見つめてくる。


 誰もが黙り込んでいる中、一人だけ、やっぱり梅吉さんが遠慮深げに手を挙げた。


「あのよう、牡丹。悪いんだけどさ。多分、親父には会えないぞ」


「へっ!? 会えないって……?」


「誰も親父には会ったことはないんだよ。俺達がここで暮らすようになって随分と日は経つが、今までに親父がここを訪れたことは一度もない」


「会ったことがないって、一度もですか?」


「ああ、一度も」


 梅吉さんは容赦なく、きっぱりと言い直す。


 それから、

「ちなみにこの家は天羽のじいさんが管理してて、じいさんは親父とは昔からのよしみらしく俺達の面倒を見てくれてるんだ。最近は仕事で出張ばかりだから家を空けてることの方が多いけどな」

と教えてくれる。


「つまり天羽のじいさんが俺達の父親代理ってとこだな。なあに、牡丹よ。話せば別に長くもないが、ここにいる俺達は、れっきとした腹違いの兄弟だ。

 親父は大の女好きで色んな女に手を出し、子どもを作ってはどっかに消え。お袋達は女手一つで育ててくれたが残念ながら死んじまった。他に頼れる身内がいないもんだから、俺達はこうして一つ屋根の下、兄弟力を合わせて暮らしてるって訳さ」


「はあ、そうなんですか」


「そうなんですかって、他人行儀な。牡丹だって今日からその仲間入り、天正家の一員だ。お袋さんが死んじまって行く当てがないからここに来たんだろう?」


「それはそうですけど……」


 大方の事情は分かった。


 けど、でも。


「それじゃあ私は、何のためにここに……」


 ずるずると塩をかけた青菜みたいに私の全身から力が抜けていく。


 そんな私の肩に、梅吉さんは、ぽんと軽く手を乗せた。


「そう気落ちするなって。元気出せよ、牡丹。その内、ふらっと親父が来るかもしれないぞ。それまでの間、兄妹仲良く暮らしながら親父が帰って来るのを気楽に待つんだな」


 梅吉さんは、けらけらと笑う。その声は憎たらしくも私の頭の中で、びんびんと強く反響した。


 何なの、何なの。一体どういうことなの。


 異母兄弟って、なに? 一緒に暮らすって、なに? このイケメン達と私が一つ屋根の下で?


 ……こんなの、普通じゃない。だって。異母兄弟が六人もいたこと自体おかしいのに、それなのに、その兄弟達が集まって生活しているなんて。そんなの、絶対に変だよ。


 お母さん、私、どうしたらいいの……?


 だけど、お母さんに私の声は届かない。代わりに私の中でぷつんと何かが切れた音がした。


「ふっ……、ふざけないでください! 私はお父さんに復讐するため、文句を言うため、ここに来たんです! 家族ごっこをするために来たんじゃないっ!」


 私はすっかり荒くなった息を肩を上下に揺らして整える。


 異母兄弟って、何よ。一緒に暮らすって、何よ。お父さんってば、どこまでふざけてるの? どこまで私をバカにすれば気が済むの……!?


 私が一人興奮していると、梅吉さんが、

「おい、おい」

と声をかけてきた。


「家族ごっことは言ってくれるじゃねえか。まっ、俺達は別に構わねえけど、でもよう、牡丹。他に行く所なんてあるのか?」


「うっ!? そ、それは……」


 私は何も言い返せない。すると梅吉さんは、まるでいたずらを企んでいる子どもみたいに、にっと嫌みったらしい笑みを浮かべる。


「だろう? だから、さ。ここで俺達とお前のいう家族ごっこをしながら親父が帰って来るのを待つのもありなんじゃないか?」


 にたりと白い歯を覗かせる梅吉さんに、私はやっぱり何も言えない。とっさに彼等から――半分だけ血が繋がっているらしい腹違いの兄弟達から視線を逸らした。

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