3.

 なんだろう。私だけがこの状況を飲み込めてないみたい。なにより梅吉さんが言った、一緒に暮らすって言葉が私の中で引っかかっている。


 何一つ理解できていない中、突然頭上からドタバタと鈍い音が鳴り出した。続いてバンッと勢いよくリビングの扉が開くと、小さな塊が中に飛び込んで来た。


「ねえ、ねえ! 牡丹お姉ちゃんが来たって本当?」


「こら、すすき! 家の中を走り回ったらだめだろう」


 影の正体は小さな男の子で、小学三年生くらいかな。藤助さんに叱られているのに、きらきらと大きな瞳を瞬かせている。


 すっかり興奮している芒くんの後ろから、今度は目付きが鋭くて、それと同じくらい眉がきりっとしている、やっぱりイケメンがゆらりと気怠げに入って来た。


「ったく、うるせえなあ。どこぞの馬鹿の影響を受けちまったんだろう。可哀想に」


「おい、道松みちまつさんよ。どこぞの馬鹿って、もしかして俺のことか?」


「もしかしてもなにも、お前以外に誰がいるんだよ」


「なんだとーっ!?? 誰が馬鹿だ、誰が!」


「ちょっと、道松も梅吉もケンカしないでよ。もう、毎回止めるこっちの身にもなってほしいよ」


 顔を合わせるなりケンカを始めた道松さんと梅吉さん。そんな二人の間に藤助さんが止めに入る。


 だけど、

「この二人がケンカするのはいつものことです。いい加減、あきらめた方が聡明ですよ、藤助兄さん」


 いつの間に部屋にいたんだろう。藤助さんの後ろに、銀縁眼鏡をかけた色白の、やっぱり目元が涼しいイケメンが立っていた。


「うっ、菖蒲あやめ。それはそうだけどさ……」


 菖蒲さんとかいう賢そうなイケメンの言葉に藤助さんが落ち込んでいると、

「ねえ、牡丹ちゃんが来たんだって? ……っと、ああ、君が牡丹ちゃんだよね。俺、桜文はるふみっていうんだ」

 最後に部屋に入って来た、大柄な体の割には穏やかな顔立ちをしたイケメンが、よろしくと私に向かって手を差し出してきた。


「はあ、こちらこそ」


 そう言って私は桜文さんの手を握り返した。


 けど。


「……って、ちょっと待って下さい! あの、みなさんは一体……」


 私は部屋に集まり出したイケメンとかわいい男の子をぐるりと見回す。


 この人達、一体何なの!? よろしくって、どういうこと?


 私が首を左右に回していると、

「本当に何も聞いてないのか? ったく、じいさんも仕方ねえなあ」

 梅吉さんは一つ乾いた息を吐いてから、

「あのな、ここにいる俺達全員、牡丹とは血が繋がってるんだよ」

 私の目を見据えて、そう言った。


「は……? 血が繋がってる……?」


「ああ、半分だけだけどな」


「半分だけ……?」


「だから俺達と牡丹は、腹違いの兄妹なんだよ」


「腹違いの兄妹……」


 ああ、そうなんだ。私とこのイケメン達は、腹違いの兄妹なのかー。ふーん、へえー、なるほどねえ。


 やっと謎が解けて私はすっきりした。


 けど。


「え、え……。腹違いの兄妹って、腹違いの兄妹な訳で。血が半分だけ繋がってて……。

 え……。え、え、ええーっ!??」


 私の口から素っ頓狂な声がもれた。こんな声、私自身初めて聞いたよ。


 腹違いって、腹違いって、つまり……。


「そっ。全員父親は一緒だけど、母親はバラバラってことだ」


 私の心の中が分かったのかな、梅吉さんが丁寧に教えてくれた。


 その上、ぱちぱちと手を叩いて、

「見事なリアクションだったぞ。今までの中で一番良い反応だ」

と褒めてくれる。

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