第4話 魔王と勇者は死に、生まれ変わり歩き出す。

他人のぬくもりなど感じたことがなかったが…いいものだ。


「すまぬな。恥ずかしいところを見せてしまった。」


「構わないよ。貴女の…いや、君とならどんなときだってうれしいからね。」


そう言って勇者が微笑みかけてくると胸の鼓動が速くなる。慣れぬものだな…いや、慣れたくないのかもしれぬが。


「そういえば…勇者よ。お主の名前は何というのだ?」


魔王軍諜報部でさえ名前がわからなかったのだ。ここは本人に聞いたほうがいいだろう。

…我の旦那になるというのに名前を知らぬのは滑稽こっけい極まりない。ところが…


「実は…僕も自分の名前がわからないんだ。というか、たぶんつけてもらってないと思うんだ。」


「なんだと?お主もか。」


「てことは、君もか…ここまで境遇が似てるとは…」


たしか教会と言っておったな…その勢力は潰す。我の旦那を使っておった罰を与えなければ。

そうやって我が密かに企んでいると…


「なら、君が名前をつけてよ。」


「いいのか?」


「うん。名前がないと不便だし…それに君につけてもらったら僕は嬉しいよ。だめ…かな?」


そう言って、上目遣いに我のことをみてくる。


グハッ…可愛すぎて倒れてしまうところだったぞ…

少し顔を赤くしながら、


「う、うむ。いいだろう…そうだな…」


といっても名前か…我の旦那に良さそうな良い名前が思いつけるだろうか…


「…ソヴィラなどはどうだろうか。」


「ソヴィ…ラ?」


「うむ。意味はこちらの言葉だが、『空を駆ける者』という意味だ。」


「ソヴィラ…か。うん。気に入ったよ!ありがとう!じゃあ、僕からもお返しに名前をつけてあげる!」


「本当か?」


我の旦那…いやソヴィラにつけてもらえるならば嬉しいことこの上ない。我が少しわくわくしながらソヴィラの思案顔を見て待っていると…


「ディレカ…なんてのはどうかな?」


「ディレカ…」


「うん。昔の言葉で意味は『黄昏の王女』…気に入ってくれた?」


…答えは決まっているだろう。


「ああ…。いい名前だ。」


「うん。これからよろしくね?ディレカ。」


「ああ。こちらこそよろしく頼む。ソヴィラ。」


――――――――――――――――――――――


「さて…この城を爆破しないとな。」


僕達の名前を決めたあと、私物を回収したいというディレカの話を了承して僕は彼女の部屋に来ていた。


「爆破って…する必要あるの?」


「ああ。この城は私が死ぬと崩落したあと爆破する設計になっているんだ。まったく…建築部と魔術部の二部が悲鳴をあげながら作業をしていたよ…」


「そうだったんだね…つまり、崩落させたあと爆発させる必要があるってこと?」


「ああ。だが…厄介なことに超高位の防御魔法がかかってるせいで崩落させることが難しいのだが…」


ディレカは僕を見て微笑みながらこう言った。


「この程度の壁など我とソヴィラならたやすく粉砕できるだろう?」


僕もつられて笑いながら。


「そうだね。さあ、僕達の初めての共同作業だ。」


「共同作業…いい響きだな。」


僕達は城の外を目指して歩き始めた。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「ここらへんでいいかな…」


「ああ。ここなら余波もそれほど酷くはないだろう。」


僕達は城から少し離れた山の頂上付近にいた。ここからなら城の全貌がよく見える。ここなら斬ることもできるだろう。


「準備できてる?ディレカ。」


「あたりまえだ。同時に行くぞ。ソヴィラ。」


以前過去は敵として。未来は味方として。ここが僕達の終わりと始まり。さあ、征こうか。


「【起動:聖剣ヴィレルナル】!」「【起動:魔杖ルナル=カノル】!」


武器を起動した僕達はお互いが何をしようとしているかが手にとるようにわかる。だから…


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