それを捨てるなんてとんでもない!〜童貞を捨てる度に過去に戻されてしまう件〜おまけに相手の記憶も都合よく消えてる!?特殊スキルで無双出来るけど構いませんね?
ep0. 「真夏の夜の爪」 ② ×××爆破先輩の称号を付与される
ep0. 「真夏の夜の爪」 ② ×××爆破先輩の称号を付与される
「OBS先輩、チィーッス」
秘密基地に来ていた先客は概史だけだった。
「なンだよ、OBSってよ?」
暑さで全身が溶けそうになった少年が気怠げにプレハブのドアを開ける。
「オ◯ホ爆破先輩、略してOBSっス」
ゲーム画面に注視したままの概史が少年に挨拶する。
「いや待て、それじゃ『先輩』が二回入ってね?馬から落馬みたいじゃね?」
「大丈夫っス先輩、今一周回ってオ◯ホ爆破先輩からの進化で『エロテロリスト』になってるっス」
概史が面白おかしく小学校のクラス内で触れ回った甲斐あって「オ◯ホ爆破先輩」はすっかり地元の一部で定着してしまっていた。
二週間過ぎてからは更に噂に尾鰭が付き、エロテロリストという新たな称号までも付与されてしまったのだった。
「いや不名誉なんだけど。なんか歴戦の勇者っぽい雰囲気醸し出してるけど違うんですけど。未経験者なんだが?」
もう100周以上クリアしているかと思われるゲームの画面から目を離さずに概史は少年に尋ねる。
「先輩、マコト先輩から何か連絡ありました?」
「いや、何も」
少年は短く吐き捨てる。
マコトが少年達の前に現れなくなってから二週間ほど経っていた。
メッセージを何度送っても既読にならないと概史がボヤく。
そもそも少年はスマホを殆ど使わない生活を送っていた。
使うとしてもごく短い通話のみである。
保護者の居ない少年がスマホを契約する事は至難の技であった。
たまにアルバイトをする少年の為にと概史の兄フーミンが連絡用として買い与えてくれたのがプリペイド式スマホである。
少年にとっての文字通りの命綱であった。
経済的な事情もあって切り詰めて使わねばならない。遊びに使う性質の物ではないのだ。
「用があれば直接ここに来ンだろ。ほっとけよ」
少年はどかっとソファに腰を下ろす。
「マコト先輩、そういうとこあるっスよね。本心を明かさないというか。一歩退いたトコから見ているというか」
「まあな」
概史と少年はマコトのことは殆ど知らなかった。
マコトが自分自身の事を話したがらないというのもあるが二人は特に根掘り葉掘り聞き出すような真似もしなかった。
「誰にだって話したくないことの一つや二つあンだろ」
少年は後頭部を掻く。ワックスで整えた前髪が揺れる。
「先輩なんてオ◯ホ爆破に至るまでの心理を丁寧に解説までしてくれたってのに。逆に先輩はオープンにしすぎじゃないですかね。足して2で割れないんスか?」
「爆破爆破うっせーぞ。爆破じゃねぇ、供養だ。俺なりの誠意だっての」
概史はゲーム機をテーブルに置いてペットボトルを手に取る。
「誠意ってなんスかね?じゃあマコト先輩にガン無視されて自分でもビックリするくらいショックなおれの気持ちはどうやって供養したらいいんスか?」
概史は温くなったファンタオレンジを流し込む。
「オメーは他人に期待しすぎなんだよ。校庭に迷い込んだ子犬みてーに誰にでも懐きすぎっつーかよぉ」
「おれ、学校で仲良い友達いないんスよ。先輩とマコト先輩だけなんス。遊んでくれるの。そんな簡単に切って捨てるつもりならなんでおれらと仲良くしてたんスか。こういうのってやられた側は滅茶苦茶傷付きません?」
それが当然の権利とでも言わんばかりに概史は年相応の子どもらしく拗ねている。
「俺らが普通じゃねぇ環境で暮らしてンのと同じだろうがよ。向こうには向こうのルールがあンだろ。今更しょうがねぇだろうが」
少年が概史の頭をポンポンと雑に撫でる。
「でも今まで毎日秒でやり取りしてたんスよ。おかしくないスか?」
概史はなおも食い下がる。
「知らん。しつけーぞ。親にスマホ破壊されたとか水没喰らったとか軟禁されたとかじゃねーの。よくあンだろ」
少年は投げやりに言葉を続ける。
「ガキじゃねーんだしよ、来年受験だろ?俺ら中学生はオメーと違って忙しンだよ」
「ガキで結構っスけど」
概史は更に不貞腐れる。
「それに前にオッサンがなんか言ってたろ。人間関係は…何だっけ?ホラ、何だ?」
「佑ニーサンのコトっスか?人間関係は腹六分?」
佑ニーサンというのは概史の兄フーミンの親友である。
フーミン同様、概史と少年の兄貴分として生活のサポートや保護者代わり役を請け負ってくれていた。
少年にとっては恩人である。だが少年はどことなく彼に対して素直になれない部分もあった。
28歳の彼に対してオッサン呼ばわりなのはある種の照れ隠しであるのかもしれない。
「あんまし深入りすっとよー。しんどいだろぅがよぉお互い。車間距離詰めすぎたら事故起こすのと同じじゃねーの。人間同士も適度な距離が必要なンだろ」
概史はふと思い出したように呟いた。
「あ。そういえば先輩、この前バイクぶつけてたでしょ?ミラー無くなってたし兄貴がブチ切れてたっス」
「やべっ」
概史の自宅ガレージにはマグナ50というバイクが置いてある。
概史や少年がたまに無免で乗って遊ぶのはフーミンも黙認していた。
寧ろ彼らに遊ばせる為に置いてあるかのようにも思えた。しかし壊したとなると話は別だ。
「おれも一緒に行きまスから謝りましょ、先輩」
「あーそうだった。やっべ、面倒くせぇな」
少年は頭を抱えた。
「あー。もうどうでもいい。全部めんどくせぇ。適度な距離なんか知らねぇし。なんかもうどうでもいいからゼロ距離でセックスしてぇ」
少年は無人のパイプ椅子を蹴飛ばした。
「逆にゼロ距離射撃でないセックスってあるんスか?」
「俺が知るかよ。電話越しでやるとかいう奴?あれ嘘だろ。あんなん認められるかよ」
少年は一旦外に出て草むらに唾を吐き捨てる。
「あー。俺だって意味わかんねぇし。アイツが何考えてっかとか知らねぇし」
少年は後頭部を掻き毟る。
ポケットの中のプリペイドスマホが鳴る。
三日に一回程の使用頻度の代物である。
「あ?誰だよ?」
少年は不機嫌を隠さないまま見知らぬ番号の電話に出た。
「……ごめん、僕だけど」
聞き慣れた声が少年の耳に飛び込む。
「……今いつものトコに居るの?」
ああ、と少年は小さく答える。
「悪いけどちょっと出てこれる?」
ちょっと出てくるわ、と概史に言い残して少年は秘密基地を出る。
最寄りのコンビニの駐車場でマコトと落ちあったのは5分後の事だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます