第8話 ep1.5「呪いの正体」 性的な呪いが解けないと死ぬ

「ちょっと待てよ」


ん?なんだ?と小泉が本を捲りながら答える。


「ゼンゼンわかんねぇよ。センセェ」


全く話が見えて来ない。呪いにそっちのエネルギーを使うのはわかった。そういうジャンルがあるんだな?問題はこっからだ。


「それとタイムリープが繋がんねぇ。なんで時間が戻んだよ?」


「いい質問だ」


小泉は含みを持たせて頷く。


「佐藤、お前は今いくつだ?」


年齢か?それが何の関係があるんだ?


「6月が誕生日だから今14だけど?」


そうだな、と小泉はまたしても深く頷く。


「じゃあ質問だ。お前は現在、大人だと思うか?子どもだと思うか?」


小泉が手にしたペンで俺を指す。


「え?急にそう言われても……未成年だから大人じゃない事だけは確かだな。子どもかって言われたら微妙だけど」


電車には子ども料金ではもう乗れないのに免許は取れず飲酒喫煙も出来ない。なんか損してる年齢な気もしないでもない。


そうだろう、と小泉は少し口角を上げる。



「なんか呪いと関係あんのか?」


「大いにある。寧ろ年齢が鍵と言っても過言ではないな」


年齢に関係?呪いにか?厄年的な何かか?俺はますます訳がわからなくなった。


「昔は平均して15歳前後で元服、つまり成人とカウントされていた」


「へえ。じゃあ俺、平安時代なら来年に成人なんだな。酒飲み放題じゃん」


待て待て、と小泉が首を振る。


「明治以前の日本では数え年が用いられていたからな。つまり、生まれた時点で一歳だ。お前は数え年なら15歳、平安時代ならもう元服してるだろうな」


俺はちょっと感心した。平安時代なら成人ってちょっとしたパワーワードだな。すげぇな。


「で、それがどう呪いに関係してんだよ」


知りたいのはそっちだった。


まあ焦るな、と小泉はペンの端でポンポンと俺の頭を叩く。俺は木魚じゃねぇよ。


「つまり現時点でのお前は大人と子どものちょうど境界線上に居るって事だ。平安時代なら成人、現在の法制度では未成年で子どもだ」


境界線上か。まあそうだな、と俺は頷いた。


「大人にはなっていないが子どもでもない。しかし生殖能力だけは一人前に有してるときたものだ」


ここからが本題だがな、と小泉は力を込めて話し始めた。


「ここ数日、何か手がかりがないかと祖父の形見の品をあれこれ探していたんだがな。その中でコレを見付けた」


小泉がポケットから何かを出して机の上に置いた。古びた銀色の懐中時計だった。


時間は止まっている。この時計になんの関係が?


「手巻き式なのに巻いても動かないんでな。裏側から開けてみたらこんなものが入っていた」


小泉は懐中時計の裏側の蓋を開けてみせた。小さく折り畳んだ紙片が入っており、時計を動かすのに必要だと思われるゼンマイや歯車はゴッソリと無くなっていた。


「なんだよこれ?」


小泉が紙片を広げてみせる。


紙片には赤鉛筆で


“昭和九十五年四月カラ昭和九十六年三月マデを永遠ニ繰リ返ス”


と書いてあった。


どういうことだよ、と俺は小泉の顔を見た。


「書いてある通りだ。恐らく我々はこの一年を何度も繰り返している」


少なくとも三度目の今年を繰り返している、と小泉は小さく呟いた。


「予想だが96年3月末を迎えた時点でリセットされて95年4月に戻されているのではないか?」


俺は古びた小さな紙片を見た。昨日今日書かれたものではないように思えた。


「それに加えてお前が童貞を捨てると数日〜1ヶ月の期間の時間を戻ってしまう。恐らくはこっちがメインだ」


意味がわからない。何で期間指定?なんでこの一年なんだ?


これは私が打ち立ててみた……あくまで仮説なんだがな、と小泉は何か考え込むような仕草をしながら語り始めた。


「突然だが男子中高生ってのは猿みたいなもんだとは思わないか?」


「いやそれを俺に言われても」


俺は戸惑った。ぶっちゃけそうだとは思うけど。


「まあつまり、人生で一番エネルギーを持て余している期間とも言えるな」


小泉は俺の方をチラリと見る。


「まあ使ってねえからそうだろうよ」


だからだ、と小泉は強調した。


「性エネルギーを使った系統の呪術ならこの時期の男子を依代よりしろに使うのは理にかなっているとも思える」


またしても小泉がペンの先で俺の頭を小突く。そう言うことか。


「14の男と41の男、依代よりしろとして使うなら効率がいいのは断然前者だろう」


だからってなんでよりによって俺なんだろう。勝手に決められても。


「じゃあ何か?誰かが俺を使ってエネルギーを無限回収して呪術に転用しようとしてるって事か?」


そう言う事だな、と小泉は頷いた。


「術者が誰か、という事までは現時点では不明だがこの地域の旧家をしらみ潰しに調べれば何か手がかりがあるかもしれんな」


めんどくせぇ事に巻き込まれてしまったな、と俺は小泉に話を聞きに来たことを後悔した。


「そんなん知らんし。じゃあ俺が何も行動とか起こさなかったらエネルギー回収出来ないんじゃね?」


バックレれば良くね?と俺は思った。


俺が普通に生活してれば相手は何も得られないのではなかろうか。


「それ、多分お前死ぬぞ」


小泉が俺を指で小突く。さっきから気軽に小突きまくってくれるなこの女は。


「目的を果たせない依代よりしろなら要らんからな。始末されても不思議はない」


「じゃあどうすればいいんだよ」


俺の頭を小突こうとした小泉の指を机の上に置いてあった“世界呪術全集”でガードする。


「なんとか呪いを解く方法を見つけるしかないな」


でないと、と小泉は難しい表情で言った。


「目的を果たした後に依代よりしろは殺されるものと相場は決まっているからな」


なんだそれは。どっち転んでも詰みじゃねぇか。


俺は頭を抱えた。

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