第41話 誕生日への招待


「うっ」


淳がシンガポールの出張から帰って三か月が過ぎ、二月に入ろうとしていた。昨日も淳と会っていた。


母親と夕食を取ろうと二階から降りて来た時だった。ダイニングからの匂いに感じると急いでレストルームに行った。


まるで口の中に指を入れられたような、腹の底から来る気持ち悪さだった。便座に手を置きながら、胃の中が空なのか、苦い体液しかでない。少しそのまま休んでいると


「奈緒子。大丈夫。どうしたの」

「うーん、ごめん。最近、調子悪くて。でももう大丈夫。すぐにダイニング行くから」


理由も分からないままに起き上がると洗面所でうがいしてそのままテーブルに着いた。


「奈緒子、どうしたの。顔が青いですよ。病院に行ったら。一人でいやなら一緒に行きますよ」

母の言葉に


「お母さん。ちょっと体調崩したからって、母親が病院に付いて行くはないでしょう。もう二五になるのよ。こうやって普通にごはん食べれるし」


本当は、あまり食欲がなかった。だが、母親が心配すると思うと、無理して美味しそうに食べた。


奈緒は、お風呂に入ろうと脱衣所に行って、部屋着を脱いでブラを取ると

「えっ」


明らかにあの時の胸のトップに似ていた。まさか、でもあの時あれから三か月が経っていた。でも、そんな…。


もうすぐ二五を迎える体は、若く、はちきれんばかりだったが、そこだけは、明らかにお腹に子供がいる女性の形になっていた。


お母様に知られる訳にはいかないそう思うと急いでバスルームに入った。


どうしよう。とにかく淳に相談しないと…。

今度は大丈夫。私の旦那様になってくれると言ったあの時の言葉を自分都合でとりながら奈緒は思うと


とにかく

…でも、一人じゃ。

…でも、はっきりした方が、淳も

…そう思うと湯船を上がった。


体を拭いて、髪の毛を乾かす為に乾いたタオルで髪の毛を包む様に巻くと二階に上がった。

自分の部屋のドレッサーの前で、お腹を優しく手で触ると赤ちゃんとつぶやいた。


そのまま、ドレッサーの横のテーブルに置いてあるスマホに目をやった。

淳に連絡を取ろう。

そう思いながら手は動かなかった。何故か、怖い気がした。


パジャマに着替えてもう一度スマホを見た。手に持って、ディスプレイをオンにすると、二一時二七分を表示していた。

まだ、大丈夫な時間そう思うと淳と表示されている部分をタップした。



 ♪♪♪ ♪♪♪



「淳、もうすぐ二月ね」

「うん」

「ねえ、はっきりしたいことが有る」

なにと言う顔をすると


「淳のここにいるもう一人の女性(ひと)。どうするの」

「…」

痛烈な言葉に、口が固まると


「ふふっ、淳、知っていたわよ」

私を選ぶでしょという自身ありげな言いように


「淳の家に行きたいな。連れて行ってくれると言ってから、行っていない」


確かに去年の夏も終わりの頃約束はしていた。

だが奈緒の事もあり、そうそうに瞳を連れて行く訳にはいかなかった。自分自身、まだ心が決まっていない。

強く、自分の目を見られると何も言えないままにしている自分に


「やっぱり」

視線を外さない瞳に、僕はまだ言えないままにしていると


「分かったわ。私が淳のお母さんに会いに行きます」

「えーっ」


「何か困ったことでもあるの」

「困った事と言われても」

「淳、信用していいって言ったよね」


きつく差すような視線で私を裏切らないわよねという風に見ると


「分かった。来週、行こう」

「何故来週なの。今週じゃダメなの」

「うーん、今週はさすがに」

「何がさすがによ」

「だって、お母さんの誕生パーティだし」

「誕生パーティ」


頭の中に疑問符が山の様に浮かぶ。


「我が家は、全員誕生日を祝う。親父がずっとそうして来た」

「お父様が」


家庭環境柄、誕生パーティなんて、小さい頃の思い出でしかなかった瞳は、流石に驚くと


「瞳、誕生パーティ来る」

来ないでしょと言うニュアンスで言ったつもりが、


「えっ、淳、呼んでくれるの。嬉しい。何をプレゼントすればいい」


完全誤解され、撤回できなくなった淳は、困り顔をしながら

「何ほしいか聞いておく」



 僕は、瞳を家まで送った帰りの電車の中で、ポケットの中のスマホが震えた。

手に取ってディスプレイを見ると奈緒と表示されている。すぐにタップすると

『今、電話出来る』

と書かれていた。電車の中を考えて


『今、電車の中、後五分位で電話する』

そう入力すると送信ボタンをタップした。


五分、仕方ないか。今まで仕事していたのかなと思いながらテーブルにスマホを置くとドレッサーに映る自分の顔を見ながら何も考えられないでいた。


テーブルのスマホが震えた。淳と表示されている。すぐに手に取り、スライドして耳に当てると


「奈緒、僕だけど」

その声にすぐに返事が出来ずにいると


「奈緒、どうしたの。何かあったの」

「淳、話したいことがある。とても大事な事。明日会える」

「明日」

淳は、いつもなら水曜日辺りに電話が来て金曜日の約束をする。ただ、スマホの向こうから聞こえる声に


「分かった。何か分からないけど、いいよ。奈緒の大事な事なら」

「ありがとう。じゃあ、ハチ公前交番一八時半でいい」

「うん、いいよ」

「じゃあ、明日」


スマホをオフにすると私は、少しだけ心の疲れ、自分だけ考えていた事を淳に話せる事で和らいだ。


奈緒、大事な事って何だろう。毎週会っていても何も言わなかったし理由が分からない淳は、そのまま田園都市線で自宅に向かった。



玄関を開け、家に上がると玄関まで出て来ていた母親に

「お母さん、今週の土曜日の誕生パーティだけど」

なにと言う顔で息子を見ると


「実は、・・・」

「えーっ、本当。楽しみだわ。淳が女性を紹介するなんて。お母さん、楽しみにしているわ」


母親の嬉しそうな言葉に、ますます流れがそちらに行くことを考えると、また心に痛みを感じた。


「瞳、お母さんが喜んでいた。プレゼントはいいからぜひ来てほしいって」

次の日、いつもの様に会社から少し離れたレストランでランチを二人で取りながら、僕は母親の言葉を素直に伝えると


「本当、嬉しいわ。ねえ、何着ていけばいい」


えーっ、そんなこと分からないよという顔をすると


「あはっ、流石にそれは無理か」

ランチを取りながら話す彼の顔を見ながら言うと


「何時に行けばいい。迎えに来てくれるよね」


えーっと思いながら

「分かった。四時には迎えに行く。駅でいい」

「うん」

と言うとこれで、お母様にも何も言わせないと思いながら微笑んだ。


「淳、今日は」

「えっ、昨日会っているし」

「いやなの」

「そうじゃなくて、僕も家で色々あるし」

「何が」


少ししつこい言い様に、さすがに淳は、

「いいだろう。僕も色々ある」


きつい言い方をされた瞳は、下を向きながら

「ごめんなさい。毎日でも会いたいから・・」

「気持ちは嬉しいけど、毎日は無理だよ。瞳だってプライベートな時間必要だろ」


少しだけ、突き放されたような気がした。何となく寂しい気持ちになりながら時計を見ると

「あっ、もう五〇分、会社に戻ろう。確かに淳の言っている事も確かね。自分自身で割り切る」

そう言うと瞳は席を立った。



―――――


奈緒の妊娠。淳は、どんな返事をするのでしょうか。

一方で瞳を自分の母の誕生日に連れて行く淳。


どうするつもりでしょう。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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