第40話 久々のデート


 飛行機が成田に着くと税関をパスした二人は、そのまま、成田エクスプレスに向かった。渋谷まで一本だ。


 僕は、何とか奈緒と連絡を取らなければと思いながら、瞳は自分の側を離れない。仕方なく、チケットを買った後、乗車まで時間があることが分かると


「瞳、ちょっとトイレ。これ見てて」

そう言って、スーツケースとPCの入ったカバンを預けるとトイレに向かった。


 その後姿見ながらやっぱりと瞳は思った。

僕はトイレに入ると急いでスマホで奈緒の電話番号にタッチした。


「淳、遅い。心配したんだから」


 成田エアポートのシンガポールからのデパーチャーを調べて、連絡が来るのを待っていた奈緒は、甘えた声で言った。


「ごめん、税関が思ったより並んでいて」


一抹の疑問を持ちながら

「そうなの。淳、明日は」

「もちろん、大丈夫だよ。朝から奈緒とずっと一緒だよ」


さっきまでの疑問が明日会えると分かると、

「本当」

思い切りスマホの向こうで嬉しい声が聞こえた。


「じゃあ、経堂の駅まで迎えに来て。八時半でいいでしょ」

えーっと思ったが、奈緒らしい言い様に微笑みながら


「分かった。迎えに行く」

「じゃあ、電車来るから」

「うん、分かった。明日はずーっと一緒だよ」

「うん、分かった」

そう言ってスマホを切ると手だけ洗って、ハンカチで手を拭きながらトイレから出て来た。


 手を拭きながら出てくる淳に本当にトイレだったのかと思うと笑顔に戻った瞳は、

「淳、後一〇分、急ごう」

そう言って自分のスーツケースのバーを上げて手のひらでしっかり握った。


 渋谷に到着すると瞳は少しでいいから、渋谷で休んでいかないと言ったが、僕は、瞳の誘いを断って家に帰った。さすがに疲れていた。理由は分からない。


 心が疲れている気がした。家に帰ると家族にお土産を渡して二階に上がった。

ヘッドレストにある時計を見ると、まだ八時前。風呂に入って寝るかと思うともう一度階下に降りた。



カーテン越しの光に記憶が戻るとゆっくりと目を開けた。

「まだ、六時半か」


 頭の中が、重かった。もう少しと思うとすぐに意識が消えた。

ヘッドレストにある目覚ましの音にうーっと思うと目を少しだけ開けて時計を見た。

「七時半か。えっ」

 もう出かけないと間に合わないそう思いながら頭の奥が重い。仕方なく五分だけと思うと、また目を閉じた。


「淳、起きなくていいの。もう八時過ぎよ。昨日出掛けるって言っていたでしょう」

「えーっ」

ヘッドレストの時計を見ると八時五分だった。


「やばっ」

 急いで紺のスラックスを履いて、アンダーシャツと薄いブルーのポロシャツを来て、ジャケットを手に持つと


「お母さん、出かけてくる」

「どこ行くの。夕飯は」


 母親の言葉に返事もせず、用仲通りに出ると二四六方向から来るタクシーに手を上げた。


「経堂の駅」


 自分が急いでいるのが分かったのか、何も言わずにドアを閉めるとタクシーが走り始めた。

 T字路を右に曲がり一つ目の交差点を左に曲がると二つ目の信号を右に曲がって小田急のガードをくぐった。


 道路が空いていた事もあり、腕時計を見るとまだ八時半まで五分ある。間に合ったと思って外の景色を見ると、駅の方に向かう女性の姿が有った。


通り過ぎる女性の姿を認めながら、

「運転手さん止めて」


いきなりの声に運転手が、

「ここでいいですか」


 対面通行であまり広くないない道路で、周りに走る車を無視して止めると、僕は歩道側のドアを開けて

「奈緒」

と叫んだ。


 私は、正面から聞こえる声に驚いた。本当は、自分が早く行って、もう遅いと甘えるつもりと早く会いたくて駅に向かったはずが、いきなり目の前に止まった車のドアが開いて彼の姿が現れた時、心臓が止まりそうに驚いた。


「淳」


私は走って、いきなり飛びつくと

「もう、会いたかったんだから」


 締め付けるように抱き付く奈緒を軽く包むようしていると

「お客さん、落ち着いたところで運賃払ってくれると・・」


気が利きするほどの言葉に

「あーっ、済みません」

と言って用賀からの料金を払うとタクシーが出るのを待って


「奈緒、会いたかった」

「私も」


思いきり抱き合う二人に

「おう、おう、朝からたまらないな」

「もう、なんであんなに可愛い子に抱き付かれるんだよ」

「やーね、朝から」

「でもいいな。周り気にせずあんなことできる」

「まあ。一〇年前ならな」

「嘘つきなさい」


 周りの言葉を無視して奈緒は思い切り淳に抱き付いた。気持ちが良かった。抱かれるような感覚に酔っていると


「奈緒、美味しい朝食食べようか」


彼の言葉に思い切りくっ付いていた顔を離すと

「うん」

と言って頷いた。


 一週間も会えなかった奈緒は、淳が側にいるだけで嬉しかった。出来れば彼の腕の中にいたかった。


 経堂では、まだ時間が早く、お店が開いていない。仕方なく

「奈緒、まだ八時半。ちょっと喫茶店まだ空いていないから、渋谷行こう。その頃には、開いているから」

「うん」


 本当に嬉しそうな顔をして頷く顔に、思い切り心の呵責を感じた。

今、瞳の事は心の隅にしかない。奈緒のあまりに純粋に自分に寄り添う姿を見ながら


「奈緒、もう体離そう。周りの人がずっと見ているよ」


彼の言葉に周りを見ると好奇心いっぱいの人達が、じろじろ見ながら通り過ぎて行く。


「あっ、ごめんなさい」

そう言って、恥ずかしそうにする奈緒に


「行こうか」

と言って、自分の左手を奈緒に出した。


 サニーサイドエッグをフォークで切って、出てくる黄身をパンですくいながら

「淳、会いたかった。本当に会いたかった」


フォークに刺さるパンをそのままに、右隣に座る彼の顔を見ると

「僕もだよ。奈緒」


 僕は、奈緒のあまりにも純粋な心に、今だけは瞳の事が頭から消えていた。

フォークに刺さったパンを口に入れて噛み終わると


「淳、お願いがある」


なにという顔をすると、下を向きながら

「今日一日、淳の腕の中にいたい。心を安心させたい」


奈緒の言葉の意味に瞳の事が頭に蘇って来た。言葉が出ずにいると


「淳、だめ」


 心の中で直感的に、渋谷で淳と一緒だった女性が、簡単な関係でない事を感じていた。それだけに、体を委ねることで心の安定がほしかった。若いが故の行動だった。


奈緒の顔を見て

「奈緒が本当にそれでいいなら」


 断れる言葉が見つからなかった。頭の中が何も考えられないままに朝食をしている喫茶店の席を立った。


「淳」


 彼にゆだねる自分自身に酔いながら、吉岡の事も忘れようとした。そして彼に抱かれることで心の安心感を求めた。


 彼の好きなようにされるままに体に感じる感覚に翻弄されながら、


 淳は私。私は淳。


間違いないそう思ってされるままに本能に任せた。


「奈緒、我慢できない」


一瞬だけ考えた。危ない時。でも・・今度は二人でそう思うと


「淳、来て」


 自分のそこの奥にあるものが明らかに彼に当たるのを感じた。そして彼が頂点に達するのが分かると、今までとは違う感覚が自分の体に熱く入ってくるのを感じた。

「あっ、あーっ」


一瞬意識が消えそうになった。そしてゆっくりと自分の体に覆いかぶさる彼に


「ふふっ、もう三回目。疲れていないの」

昨日までの出張を考えながら言うと何も言わずに彼は口付けをした。


「淳、明日も会いたい。ずっとこうしていたい」

こんなこと好きな子ではなかったと思うと


「奈緒、どうしたの」

「淳とこうしていると安心する。ずっとこうしていたい。ずーっと」

意味が分かった。


「うん、奈緒、こうしていよう。でも明日は、月曜日の出社のサマリをしないといけない。ごめん」

言葉に一抹の疑問を感じながら


「信じていいよね。ずーっとこうしていられることを」


奈緒の言葉の意味が痛いほどに分かった。結婚してほしいと。


 その言葉に自分の気持ちがどこにあるのか、分からなかった。

ただ、奈緒の今までの事、そして今の気持ちが瞳の事を忘れさせた。心に流されなが  ら淳は安易に答えた。


「うん、そうだよ。奈緒」


 私は、今の言葉が、間違いないものと思った。淳が私をお嫁さんにしてくれると言った。

思いきり腕を彼の首に巻き付けて口付けをした。


淳は私。



―――――


一週間ぶりのデート。奈緒子は淳に思い切り抱かれ、心の安心感を得ます。

でもこの事が、後で大きな事になって行きます。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします

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