第33話 二人の女性


山之内淳と竹宮瞳のデートの続きです。


――――


 私は、劇場を出た後、飲食物を販売するカウンタのそばまで来ると

「淳、ちょっとトイレに行って来る」

「うん、ここで待っている」


 瞳の後姿を見ているとポケットに入れてあったスマホがいきなり震えた。

なんだろうと思ってスマホを見ると奈緒と映っていた。瞳がトイレに行っている間と思ってメールの内容を見た。


『淳、どこにいるの』


 一瞬、言葉の意味を深く感じた僕は、奈緒と思うと、もしかしたらと言う言葉が浮かんだ。でも、まさかその言葉が浮かんだ時、瞳が笑顔で自分の側に寄って来た。


「夕飯どこにしようか」

 既に、夕食も一緒と瞳のお母さんには瞳が了解を取っている。取らないで帰る訳には行かなかった。嬉しそうな顔をして瞳が、


「どこに行く。淳の好きなところがいいな」

もう、自分で行きたいとこないのかよと思うと


「たまには、瞳の行きたいところでいいよ」

少し黙った後、

「ううん、やっぱり淳の好きなところがいい」


こりゃ、奈緒以上だ。奈緒は、勝手に決めるけど、そういう意味では反対だな。


「何考えているの」

「いや、何も」

「えっそんな事ない。今、何か考えていた」

「これから行くレストランの事」

「本当、まあいいわ。信じてあげる」


嬉しそうな顔をしながら淳の左手を掴むと

「行こう」


 私は、家に挨拶に来てくれた事で、一段と淳との心の距離が近くなったと思っている。それだけに彼が側にいると安心感を覚えた。


映画館が入っているビルを出ると

「こっち」

と言って、左手にある信号を渡った。


 ここの通り、いやだな。

淳と歩く通りの左手に階段が有った。その向こうにピンクや黄色のネオンが輝いている。

 

急に足を早める瞳に

「えっ、どうしたの」

「なんでもない。早く行こう」


 行く場所知らないのに。そう思いながら左手をチラリと見るとあっそうか。そう言う事。瞳の態度が理解出来た僕は

「分かった。早く行こう」

と言って、足を早めた。


 その通りを出ると右に曲がり一〇メートルも行かないところに地下に通じる階段が有る。

「ここ」


 隣に立つ女性の顔を見るとそのまま、階段を降りた。赤いドアを開けて中に入るとイタリアンな雰囲気が思い切り出ていた。


「素敵なお店ね」

「うん、まあスパゲティ屋さんの中では良い方と思う」


 東急本店通りの地下一階にあるお店を選んだ。映画館が入っているビルの地下にもお店が有ったが、奈緒と一緒に行った所は抵抗が心の中に有った。


「それに、結構美味しい」

「味はいいよ。ここは」


 白ワインを右手に持ちながら瞳の可愛い顔を見ていると何となく、むくむくとするものが有った。ここに来る間に通った通りがそうさせたのかもしれない。


「淳、この白ワインも美味しいね」

「うん」


 瞳の口元から出る言葉とムスカデシェルリィの美味しい白ワインの味が、何気なく目線を瞳の目元から口元にそして喉元に行かせた。


 透明感のある綺麗な肌をしている。今日は胸元が開いている洋服を着ている。自然とそのまま目線が降りて行った。

 ゆっくりと視線を降ろすと透明感のある肌が、胸の中央で少しだけスリットしている。その後は、ふくよかに洋服に包まれて緩やかに盛り上がる。少しだけ見ていた。


「ふふっ。淳、どこ見ているの」

相手の視線の先が分かっているが故の言葉に


「えっ、いや」


言葉がつながらない目の前に座る男にちょっとだけ同情すると話を変える様に


「明後日から一週間ずっと一緒ね。上手くしないとね」

「大丈夫だよ。あの二人。仕事の時以外は、自分達のことでいっぱいだから」

「うーん、でも気を付けないと」

「まあ、あの二人は、気にしないんじゃないかな」


「どうして」

「特に理由ないけど、二人の関係がばれても、口にするような人たちじゃあないし」

「分からないわよ。どこかで飲んでいる時、ポロっと口が滑るかも」

「それはあるな」

「でも、気を付けると言っても、普通にしていれば大丈夫だろ」


「それ、その普通という態度が難しいのよ。自然と出てしまうみたいだし」

「じゃあ、二人がどこかに行ったら、僕たちも別々に行動すれば分からない」

少し、意地悪な言い方すると


「淳は、本当にそれ望んでいるの」

怒った顔で言う瞳に言いすぎたなと思うと

「有るわけない」

「じゃあ、何でそんな事言うの」

「ごめん」


下を向いて白ワインを飲みながら視線を外す彼に

「ふふっ、許してあげる」


まずい展開だと思いながら、いつの間にか、白ワインが一本開いていた。


「あっ、もうない」

その言葉に瞳がちらっと腕時計を見ると

「七時半か。微妙な時間ね」

「でももう一本なら一時間位で飲めるよ」

「私はもういい。お腹いっぱいだし」


「じゃあ、少し散歩する。この時間ならまだ家に帰ることもないし」

「そうね。そうしましょう」

店員にチェックの態度を取ると、請求書を持って来た。


お店の人にカードを渡した後、

「どうしようか」


 僕はその言葉にどういう意味だろうと思って顔を見ていると、タイミング悪く店員が、

「ありがとうございます」

と言って、請求書とクレジットの用紙を渡した。


仕方なくそれにサインをして精算済ますと目の前に座る女性の顔を見て

「出ようか」


心のつまりを少しだけ含んだ言葉に

「うん」

と言って頷くと瞳も立ち上がった。


 階段上り外に出ると二人の足は自然と元来た通りに向いた。瞳が強く手を握ってくる。横に並ぶ瞳を見ると下を向いたままだ。少しだけ歩くと


「行かないとだめ」

「…」

私の言葉に足を止めて無言でいる彼の顔を見上げて


「明日、日曜だよ。明日また会いましょう。そしたらいいから。今日は帰った方が」


 暗に私も同じ気持ち。でも今日は我慢しよ。そんな気持ちが言葉に有った。


 僕は今日、瞳の家に挨拶に行っている。確かに今日遅くなるのはまずいと思うと


「分かった」

そう言って隣にいる彼女を見た。

ごめんなさいという顔が浮かんでいる。言葉が続かないまま、頭の中が乾いた様に


「送るよ」

とつれなく言うと


「えっ、散歩しよう」

まだ、別れたくないという気持ちが現れている言葉につい微笑むと


「そうだね」

と言って、自分の頭の中が一つの事しか考えていなかった事を思うと少し恥ずかしくなって、にこっと笑って道を返して公園通りに向かった。


「まだ、人が一杯だね」

「まだ八時前だもの」


 淳の左手をしっかりと握りながら体が触れるくらいに側を歩いている。淳に体を許すのは、まだ恥ずかしさも有ったが、一度許した以上、知らない世界への興味も大きかった。母にも紹介している。


 彼にゆだねることは自然の流れと思っていたが、母の手前、今日は素直に帰る方が良いと瞳は思った。


 ふしだらな彼と思われたくなかった。今日、普通に帰れば、次のステップに普通に行ける。そう思っていた。


 坂道を歩き、そのまま公園通りをNHKの方向に歩いて行くと、人通りがまばらになって来た。更に歩くと周りには誰もいなくなった。


 僕は立ち止まると瞳の方を向いた。自分の胸の高鳴りが彼女に聞こえる様な気がした。

 彼の望むことが分かった。人がいないとはいえ、少し恥ずかしさもあったが、何も言わずに目を閉じると彼は、優しく唇を当てて来た。


 はじめゆっくりと唇を吸うようにしていたが、右手を瞳の左胸の下にゆっくりと持って行った。一瞬だけ、ぴくっとしたが、特に抵抗はなかった。


 ゆっくりと下から触ると柔らかい中にブラのガードの様なものが有る。少しだけ手のひらを上にあげると固いガードの上反りあがるように柔らかい部分が有った。


 優しく触りながら、更に手のひらを上にあげて包む様にすると見た目より大きな胸が手のひらの中に有った。

 大きく手のひらを開いて、優しく包む様に胸を揉むと瞳の唇が強く吸い付いてくる。ゆっくりと撫でるようにトップを意識しながら揉んでいると段々、しっかりとトップが固くなって来た。


 手のひらに当たる固くなった胸のトップを少しだけ摘まむ様にすると瞳の左手が、自分の右手を抑えた。強く握っている。


 仕方なく右手をそのまま背中からお尻に持って行き優しく触ると、柔らかい感触が、有った。唇を話して

「瞳がほしい」


うんうんと頷きながら彼の顔を見て

「明日ならいい。今日は、我慢して」


 自分自身、このまま彼に抱かれたい気持ちだった。でも今日は出来ない。そう思うと強くもう一度彼の唇に自分の唇を合わせた。


改札を出て家まで送ると

「明日ね」

「何時」

「九時にハチ公前交番。一緒に朝食食べよ」

「分かった」


 玄関に入る姿を見届けると自分の腕時計を見た。まだ、九時少し過ぎたところだ。まあいい時間だなと思うと瞳が行ったことが正しいと感じた。



―――――


山之内淳は、一ツ橋奈緒子を捨てて、竹内瞳を選ぶのかな。

何となく、しっくりこない。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る