第31話 他の人と


「一ツ橋さん、何を食べます。好きなところでいいですよ」

「はい、でも吉岡さん、選んで下さい」

「分かりました。嫌いなものは」

「有りません」

 思いがけない出会いで、一ツ橋奈緒と、昼食をする機会を得た吉岡は、この前、送った時は、つれなかったけど、今日はまんざらでもなさそう。

自分の前にいる可愛い女性に思い切り、少しの思いを期待を寄せながら


「じゃあ、セルリアンタワーに行きません。ちょっと歩くけど素敵なお店あるし」


 ここは、無理してでもちょっとかっこいいところを見せなければという思いと少しでも長くいたいという気持ちで、声を掛けると

「えっ、いいのですか」


 私も、セルリアンタワーの店は知っている。でもお昼に食べるには、ちょっと高いだろうと思った。


「いいです。せっかく一ツ橋さんと食事が出来るのに、その辺では、惜しくて」

吉岡さんの言葉に目元を緩ませると


「じゃあ、行きましょう」

西武デパートの目の前の信号を渡る為、体を後ろに向けた。


 結構、大きい人だな。吉岡さんが前にいると前が全く見えない。

私は、そう思いながら青になった交差点をクロスするように歩いて行った。


 時折、私を見ながら歩調を合わせてくれる。それが、分かり安く態度にでる。優しいんだと思って、また微笑むと


「一ツ橋さん、どうしたんですか。何か可笑しいことでも」

「いえ、何でもないです」


下手に優しいですねなんて言ったら誤解を招くと思った私は、あえて言わずにいた。


 西武デパートからセルリアンタワーに行くには、ハチ公前交差点をクロスして、もうなくなってしまった渋谷プラザを通り過ぎ、横断歩道橋を渡って、二四六を三軒茶屋方面に少し歩かなければならない。


 吉岡は、折角偶然会った可愛い無言のまま付いてくる女性に何か話さなくては、と思い


「一ツ橋さん、今日は、どの様な用事で渋谷へ」


さっき答えたのにと思いながら

「ちょっと、洋服を見に。買うか買わないか分からないですけど」

「そうなんですか。僕もスマホ、更新するか分からないけど見に来ました」


 西部デパート前で会った時と同じ会話する彼に、クエスチョンマークを頭に浮かべながらいると


「そう言えば、これ、さっきのデパートの前で話しましたね」


照れ笑いながら言う吉岡さんに私も付き合って微笑むと


可愛いな。微笑むと一段と素敵に見える。彼いるんだろうな。仕方ないか左隣りを歩く女性を横目で見ながら思うと


「一ツ橋さん、聞いていいですか。ちょっとプライベートな事」


「えっ、なんですか」


「一ツ橋さん、スティディな人いるんですよね」


「スティディな人」

言葉の意味に疑問を感じると


「あっ、スティディと言っているのは、その、例えば、もう心に決めた人がいるとか」


「…ちょっと、答えられません」


少しきつい口調で真面目な顔をして返答する女性に


「あっ、すみません。やっぱりいきなりでしたよね。あつ、もうそこです。美味しいもの食べましょう」


 話の持って行き方をミスったと悟った僕は、すぐに会話を変えようと目の間に迫ったセルリアンタワーのレストランの会話にしようとした。


 結構、ストレートな言い方で聞いてくるな。そう言う事、普通聞かないでしょ。

彼の質問に淳の話題を出したくなかった奈緒は、あえてきつく答えた。


吉岡は、何も言わずに左手にあるエスカレータに乗ると

「ここの二階にあるイタリアンレストランにしましょう」


 エスカレータを降りて右に大きく回るように歩くとガラス越しのレストランが見えた。カウンターとテーブルがあるお店だ。


 ここかあ。


奈緒は、ガラス越しに見えるレストランを見ながら歩くと左に回ったところで入り口が有った。左手にコースメニューと値段書いてある。


 三千円からだ。結構高いな。いいのかな。


 何も言わず入り口を入った吉岡さんの背を見ながら思うと、中から真っ白なシャツを着て、少し背の高い紺のエプロンが脛まである店員が近寄って来た。


「いらっしゃいませ。ご予約ですか」

「いえ」

「何名様ですか」

「二人です」

そう言って人差指と中指を立てると


「少々お待ちください」

と言って、カウンターの横に歩いて行った。


カウンターの置いてあるリストを見ると、その後、更に二人を値踏みするように見てから、もう一度近寄って来て

「席をご用意出来ます。どうぞこちらへ」

と言って、二人の前を歩きだした。


 窓に近い中ほどのテーブルだ。場所としては可もなく不可もないというところだ。既に三組のお客がテーブルを囲んでいる。

テーブルに案内した店員が、一度離れると


「吉岡さん、いいの」

色々な意味を含めて言うと


「全然いいです。一ツ橋さんが気に入ってくれると嬉しいです」

「とても素敵なところです」

「良かった」


 二人の会話のスキを見るように先程の店員がメニューを持ってきた。

始め吉岡さんにそして次に私に渡すと

「お決まりになりましたらお呼びください」

また席を離れた。


 私はメニューを開くと最初のページと次のページにコース料理が並んでいた。

結構高いなと思いながら更にページをめくると単品が載っている。決まらずにいると


「一ツ橋さん、どれにします。僕は、ペペロンチーナのスパゲティのセットにグラスの白ワイン。休みだから」

いたずらっぽく笑いながら言っている。


まあ、取りあえず無難にと思い、

「じゃあ、私は、ボンゴレのスパゲティのセット」

「飲み物は」

「水でいいです」


 本当は、目の前に座る姫君が少しでもワインを口にすれば、色々話せるかなと思った吉岡は、ちょっとだけ残念そうな顔が吉岡の顔に浮かんだが、

「分かりました」

と言うと先程の店員の方を向いて手を上げた。


 白ワインの入った吉岡は、自分の事を話した。仕事の事や、プライベートな事、聞いてもいないが、良く口元が動いた。


 私は、その話を聞きながら相槌を打つだけだったが、楽しそうに話す吉岡さんに微笑みも隠さなかった。


 一ツ橋さんの笑顔ってホント可愛いな。こんなに素敵な人に誰もいないなって考える方がおかしいか。

 そんな考えを頭に浮かべながら奈緒の笑顔を見ながら話しているといつの間にか二時を過ぎていた。


―――――


中途半端な態度が誤解を生みます。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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