第26話 実家訪問


月曜日、僕は出社するとPCを立ち上げた。そして、一度トイレに行って手洗いとうがいをすると、コーヒー自販機でホットコーヒーを買って席に戻った。


家で自分要れるコーヒーとは比較にならないが、最近の自販機は、一杯ずつミル挽きになっているので、十分に美味しい。


 ツールバーからメールソフトをクリックすると受信トレイが数値をカウントした。

わあ、入っているな。新プロジェクト関連でシンガポールからのメールが半分ある。後は、国内のメールだ。

取りあえず、ヘッダーだけを見ると瞳のメールが目に留まった。なんだろうと思って開けると


『プロジェクト通達Ⅱ。山之内さんへ 本日昼食時、社外打ち合わせを行います。 時間一三〇〇・・・ 竹宮さんより』


メールを見て顔を緩ますと

『下記の件 了解 山之内』と返信した。


「おい、月曜の朝から、何ニタニタしているんだ」

声の方向に顔を向けると


「あっ、柏木部長」

「新プロジェクトのトランスファ。上手く行っているようだな。向こうのディレクタからもう一度、お前に来てくれと連絡が有った。来月になるが予定しておいてくれ」


「えっ、でも向こうからのメールでは、私が行くような状況にはなっていないようですが」

「なに、本番環境移行前のテスト環境上で、検証確認のポイントを現地の実機で見てほしいと言っている」


逆らえるはずもなく淳は、

「分かりました」

と答えると


「そうだ、竹宮さんにも行ってもらう。今度のプロジェクト進捗会議で発表する」

今度は何も言わずに頷くだけにすると柏木部長は席に戻った。


「そっちは、聞いている」

スパゲティをフォークに巻きながら竹内は言うと


「プロジェクトの事」

「うん、またシンガポールに行って来いって。この前のメンバと同じそうよ」


「えーっ。今日の朝、部長から聞いたけど・・。部長達、絶対自分達向けの出張だな。なんかおかしいと思ったんだ。

向こうのメンバとやり取りしている中に、僕が行かなければいけない内容なんてどこにもないし。

ちょっと仲のいい奴に聞いたら、淳が来てくれるのは嬉しいよ程度だもの」


「やっぱりなあ。でも私はいいや。向こうに行ったら、あの二人は仕事以外どこかに行くから、ずっと山之内君と一緒に居れる」


スパゲティが喉を通る途中に聞いた言葉に一瞬、咽そうになると、急いでグラスの水を飲んだ。その姿に


「淳は、いやなの」

「竹内さん、山之内」


「あっ」


「どうなの」

「嬉しいに決まっている」

微笑みながら今度はゆっくりとスパゲティを口にした。


 次の土曜日、僕は、奈緒の家に行った。瞳とは次週の日曜に会う予定にした。

奈緒の事だから土曜日家に行けば、次の日曜日会いたいと言うのは目に見えているそう思っていた。


 用賀の駅から三軒茶屋まで出て世田谷線に乗り、山下から豪徳寺で乗れば隣駅だ。

一見、遠くに見えるが三〇分も掛からない。経堂の駅を降りると改札に奈緒が待っていた。


「淳」

階段降りて来た僕の姿を見るなり、周りに聞こえるほどの声を上げながら手を振って改札の外で待っている。

淡いクリームのワンピースに白ハイヒールの靴を履いている。

あれれ、参ったな。しかたないかそう思いながら奈緒の待っている改札を通ると、いきなり左手を握られた。


 そして、淳の顔を見るとふふっと笑って

「いらっしゃい」

と声を掛けた。


僕は、笑顔で

「はい、来ました」

と言うと奈緒は、さっと淳の左側に来て手を握った。


僕の顔を見上げるようにすると

「淳、何となく恥ずかしいな。でも嬉しい気持ちも一杯。ふふっ」

そう言うと僕を引くように歩き始めた。


「お母さん、ただいま」


その声に玄関の上り口来た奈緒の母親は、僕の目をしっかりと、上り口で顔を笑顔にしながら見ると


「初めまして。奈緒の母です。上がってください」

笑顔にしたまま、廊下を奥に戻った。僕は奈緒の顔を見ると


「ごめん、お母さん、淳が来るのを楽しみにしていたの。私何も言わなかったから」


僕は、緊張していた顔を笑顔に戻すと

「うん、いいよ。でもちょっと緊張した」

その言葉に笑顔になると

「淳、上がって。私の部屋に行こう」

「えっ」


「うん、いいの。今日は、私の家に遊びに来たことになっているから」

「でも、挨拶だけでも」

「言いましたよ」

「えっ、お父さんは」

「出かけた。ゴルフだって。私の彼には、興味ないみたい」


奈緒の言葉に心がズキッとしたが、

「うーん、よくわからないけど」


実際に、分からないし、奈緒の父親と正面切って顔を見合わせるだけの勇気はなかった。

奈緒に付いて廊下を歩き、左側にある階段を上がると左側にドアが、三つあった。

へーっ、結構広いんだな、つい自分の家と比較しながら感じていると


「淳、ここ」

と言って、一番奥のドアを開けた。八畳の部屋に更に左奥に階段がある、ロフトに通じているという感じだ。


「入って」

奈緒は、少し恥ずかしそうな顔をした。


「どうしたの」

僕の顔を見ながら少し頬を赤らめながら


「だって、女の子が自分の部屋に男の人を入れたのよ」

と言うと急に

「ねえ、ロフトもあるの。後でね」

と言って、東側にある窓を開けた。


「へーっ、スカイツリーや新宿、有明方向も見えるんだ」

「ねっ、素敵でしょ。淳の家の方は、あっち」

右手で方向を指した。


僕は、そんな奈緒の嬉しそうな顔を、景色を見る振りをして横目で見ると本当に嬉しそうだなと思った。


 二人で窓から見える景色を見ているとほんの少し、奈緒が僕によってきた。体を寄せるようにすると景色を見ながら


「淳、このままずっとこうしていられるといいね」

あえて、僕の顔を見ないで、窓から見える景色に視線を投げながら奈緒は言った。


期待があった。うん、いいよ。これからもずっとこうしていようという返事の期待が。


僕は、黙っていた。何の気なしに聞こえた奈緒の言葉に気にもせずにいると


「淳、ねえ」

「えっ」

「えっじゃない。もう」


少し怒った顔 でぷいっとした顔をすると、淳は何かしたかなそんな事しか浮かばなかった。本当は、景色に夢中であまり聞こえていなかっただけのことだが。


奈緒の母は、優しく奈緒のスティディな友達として応対した。だが、奈緒の微妙な変化に気づいていた感じがあった。


山之内さん、お仕事してどの位とか、ご両親は、どの様なお仕事をとか、単に自分の娘お友達が遊びに来たという感じではなかった。


やがて、午後二時位になると

「お母さん、そろそろ外に出かける。ちょっと今日も遅くなるからね」

奈緒の言葉に

「分かりました」

そう言いながら、視線は淳を見ていた。


まるであなたは責任とれるの。うちの娘にという視線だった。

僕は、玄関で靴を履き振り向くと

「お邪魔しました」

そう言って奈緒の顔を見た。


「じゃあ、お母さん行って来るね」


駅に向かう途中で、

「結構緊張したな」

「えっ、なんで」

「なんでって。奈緒のお母さん結構厳しく見ていたような」

歩きながら、自分の左を歩く淳の顔を見ながら

「ふふっ、そうかもね」

そう言って、自分の左手で淳の右手を握った。



―――――


淳の一ツ橋家初訪問でした。

やっぱりこのまま行くのかな。……と言う訳には行かないような。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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