第25話 戸惑い


山之内淳は、今回から竹宮さん→瞳と呼ぶようになります。

竹宮瞳も、山之内君→淳と呼ぶようになります。


――――


「あっ、淳。もう二時半だ」

僕は、瞳と会った後、表参道方向に歩いて行った。

私は、既に昨日、体を合わせたことで、淳の手をつなぐことに抵抗はなかったが、流石にそこまでは、しなかった。心の中で大人としての自制心が有ったのかもしれない。


渋谷から宮益坂を昇り、青山通りを通って表参道まで来ると

「淳、ちょっと寄りたいところがあるの。いい」

「えっ、いいよ」


そのまま何も言わない瞳に

「どこか行きたいところあるの」

「うん、ヒルズ」

「いいよ」


渋谷方向から表参道の交差点を渡り、左に表参道を降りるように歩いた。僕は、今の心の居心地の良さを感じていた。


「もう少し、一緒に居たかったな」

名残惜しそうに言う瞳に


「ごめん」

その後、何も言わない淳に一瞬だけ、疑問を感じたが、


「仕方ないよ。私もそろそろ今日は帰らないと」

朝の言葉とは裏腹に母親の事を思うと、早々に家に戻らなければと思って頂けに心の中では、上手く整理を付いていた。

 

僕は、瞳と別れ田園都市線に乗った。念の為。池尻大橋でUターンした。


私は、頭の中で仕方ないか。もう少し一緒に会っていたかったなと思うと初めて体を許した相手を思いながら自分も東横線ホームに行った。


今は、地下鉄になっている。淳を送って連絡通路という手もあったが、そこまではと思い、地上で別れるとそのまま、自分もヒカリエ側から地下に入った。


 僕は、洋服に瞳の匂いが付いていないかちょっと気にしたが、手をつないだだけだと思うと、そのままにして、地上に出た。

階段を昇り、すぐに左にUターンすると案の定、奈緒は、待っていた。


時計を見ると三時ちょっとすぎ。いつもながら遠目でも通りすがりの男が奈緒を見て行く。僕に気が付くと思いきり微笑みながら近付いて来た。


「淳、二日酔い治った」

と言って、いきなり額に手を当てた。

「奈緒、風邪じゃないから」

「なにを言っているの。二日酔いは、顔も頭もぼーっとするでしょ。風邪と同じ症状よ」


僕は、奈緒の知識を考えれば、当たり前のことだと理解するとそのままにさせた。周りの人が何しているんだろうという顔をしている。


「うーん、全然ないね。もう大丈夫だね」

ちょっと首を横にひねりながら納得すると


「じゃあ、映画見よ」

「えっ、今から何かあるの」

「うん、淳が三時からと言ったので、この時間に見れる映画探しておいた。淳も前に見たいと言ってたやつ」

「あっ、ほんと。じゃ、行こう」


スクランブル交差点の方を向いた時、奈緒が、自分の左手を掴んだ。やばっと思ったが、もう遅かった。


「どうしたの。手をつないだだけだよ」

いつも歩くときは手をつなぐ行為に何も違和感がないはずなのに、淳のしぐさに不思議そうに言った。


「えっ、別に。吊革捕まっていた手だから」

「わあ、ありがとう。じゃあ、映画館に着いたらすぐに手洗いしよ」

そう言って、映画館に向かった。


道玄坂を昇ってすぐに左にある映画館だ。インターネットで予約が出来る。今日は窓口でチケットを買うと地下に行った。


「じゃあ、手を洗ってくるね」

奈緒の言葉に頷くとサービスカウンタで何を飲もうか考えていた。


 私は、手洗いついで先に用を済ますと手を洗おうとしてえっと思った。

オーデコロンの匂い。それも安いやつじゃない。手を洗おうとして自分の右手から匂った明らかに高いと分かる女性用オーデコロンの匂いに、私は一瞬だけ考えると手を洗った。


それから、淳の側に行くと気が付かない振りをしてサービスカウンタで飲み物を頼み劇場内に入った。


映画が終わり、奈緒と夕食を取る為、居酒屋に入った。


「淳、今日、家から来る時、オーデコロンの強い人いた」


質問の意図を掴めずに少し酔った頭で

「そんな人いなかったよ。どうしたの」

「ううん、何でもない。ちょっと会った時、一瞬、淳から匂ったから」

あえて手とは言わずに言うと


「気のせいだよ。周り一杯匂う人歩いているし」

「そうだよね」

私は、頭の中に明らかに矛盾を感じながら食事をしていた。


「淳、今日は」

意味が理解できるので


「うん、今日は家に帰ろう。送っていってあげる」

「でも、まだ、九時だよ。淳と会って、たったの六時間だよ」


 私は、昨日の夕方別れた後の時間と今日三時からになった時間を考えると明日の朝まででも良い思いでいた。もう両親にも紹介したいという気持ちだった。

「分かった。ねえ淳、次の休みの日、私の家に遊びに来ない」


僕を真面目に見ながら言う奈緒に

「いいの」

「うん、もう良いの。しっかり紹介して二人の事、知ってもらおうと思う。淳は」


少しの間の後、

「うんそうしよう。我が家も時間調整するよ」

「本当。嬉しい。じゃあ、今日は、帰ってあげる。送ってね」

そう言うと目の前のビールをほんの少し口にした。淳は、生ビールの後、お銚子を二本飲んでいた。



―――――


淳と奈緒の久々の静かなデートでした。

淳の心は、やっぱり奈緒なのかな?


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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