第16話 二人の決断


 竹宮さんと会っていた間、見ることができなかったスマホを見るとやはり入っていた。

『淳、連絡ほしい』

前だったら、簡単に電話した奈緒の心の変化に心に刺さるものを感じるとすぐに返信した。


『奈緒、ごめん。仲間と飲んでいて連絡できなかった』

嘘はついていないと思うと送信ボタンをタップした。もう十二時近かった。


 家に着くまで、返信がなかった。いつもならあるのにと思いながら風呂に入るとそのままベッドに入った。


 淳から返信が有った頃、奈緒は、体調が悪くベッドで横になっていた。



翌日、昼間に奈緒からメールが入った。

『今日会いたい。何時に終わるの』


前だったら、何時に会いたいと言ってきたはずなのに、今回の件で明らかに心に変化が有った。


『今日は六時終わる。六時半にハチ公前交番にしよう』

そう入力して送信をタップするとほどなくして


『分かった。待っている』

と返信が、有った。

奈緒の心境を思うと僕も少しだけ仕事から頭が離れた。




「奈緒、良く聞いて」

奈緒は頷くと


「奈緒、お腹の事だけど・・生む為には、やはり結婚する必要があると思う。でも奈緒と一緒になる為には。両方の両親にきちんと説明して、準備をしてとなると……。


 はっきり言って生活的にも相当厳しい。それに奈緒と一緒になっても僕自身が奈緒と一緒にいる時間が少ない。

 今、参画しているプロジェクトはこれからが大変だ。奈緒一人にばかり負担をかけることになる」


奈緒は、最初の言葉に一瞬だけ期待したが、言葉が進むに連れて、段々悲しい顔に変わって来た。


「いい、淳がいない時は一人で頑張る」

「無理だよ。まだ、奈緒は、二四だよ。もっと楽しい時間もある。 

今、・・その子には申し訳ないけど・・これからもいくらでも機会があるし・・それに、冷たい言い方だけど、今なら、奈緒の体に負担をかけずに出来る・・・」


 涙が止まらなかった。もっと優しい言葉をかけてくれると思っていた。まさか、一番自分が望まない言葉を聞くなんて


「いや……」

「ご両親も……」


 まだ、お母さんには話していない。もし言ったら……そう思うと確かに怖かった。淳の言うことが正しいかもしれない。

 何も言わないままに視線が彼の目線から段々下っていた。何分経ったのか分からなかった。

淳も何も言わない。


奈緒はゆっくりと顔を起こすと

「淳、もし、もし、堕胎したとして、その後は。淳は、これからも私の側に居てくれるの」

必死にしがみつくような思いを出しながら言うと


「当たり前だよ。僕はいつも奈緒の側にいるよ」


言葉に嘘はなかった。ゆっくりと大事に奈緒との関係を育てようした。だが、それはほんの一つの事で大きく流れが変わった。

ゆっくりと流れていた川が、急に狭まり、川底も大きな石がごろごろ有るように。

長いような短いような時間が流れた。


「分かった。淳の言う通りにする」


 私は、まだ、大きくないお腹を両手でゆっくりと触った。


 あなたは……自然と涙が出て来た。溢れることが止まらずにハンカチで目を抑えるともっと涙が出て来た。声を我慢するのが精いっぱいだった。


 僕は、その姿に心臓が両手で締め付けられるような気持ちになった。

今の奈緒には、何の言葉も意味をなさない。それを知っているからこそ、ただ奈緒を見つめるだけだった。ただ心の中でごめんとい思いだけがあった。


 それから、一週間後、インターネットで探した両親や親せきに分からない、他の区にある病院に行って処置をした。帰りの車の中で、奈緒は下を向きながら、涙が止まらなかった。


 僕は、今日の為にホテルの一室を予約しておいた。奈緒の体を休ませるためだ。ベッドの上で横になる奈緒に

「側にずっといるから少し寝なさい。体の為に」


私は確かに体に強い違和感が有った。

「ありがとう。淳」


 彼女は、直ぐに目を閉じた。医者からもらった痛み止めが効いているのかもしれない。すぐに眠りについたようだ。


 僕は、その寝顔を見ながら、自分がしてしまった事、そして自身の今回の責任。更にこれから奈緒が背負うであろう責任と、奈緒への自分自身の責任を強く感じていた。

これからどうすれば頭の中は、全く整理出来ないでいた。


 それから二週間が経った。少しずつ奈緒は、元気を取り戻していった。

僕自身の奈緒に対する責任と思いも感じていたからだろう。


僕は毎日の様に、奈緒に連絡し体調を聞いた。


 私は体調が悪い事を理由に三日間の休みを取った。親には、ただ、体調が優れないとだけ言った。


 医者を呼ぶと言う親に、絶対にいらないと言って、自分の部屋にこもった。

食事と淳と会う以外は。医者が見たら原因は一発でわかってしまう。ばれるわけにはいかなかった。


 親も最初はしつこく言っていたが、二日目からはあきらめたように何も言わなかった。初め体に重さを感じていたが、日が経つにつれ良くなってきた。



 僕も仕事で遅くならない限り、少しでも奈緒の側に居ようと思い、仕事帰りに少しの時間でも、奈緒の体の負担を考えて、経堂の駅で待合わせして会った。


 そんな効果もあったのか、僕自身も少しずつ、二週間前に負った心の負担が軽くなるのを感じていた。



―――――


むーっ、仕方ない事で済ませていいものか。

快楽の代償は、時として大きいものです。


でも奈緒子さん、体調が戻って来て良かったですね。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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