第14話 奈緒子の思い


僕は、奈緒に言われて、渋谷の交差点から少し離れたコーヒーショップに入った。あまり人がいなかった。奈緒に早速お土産を説明すると目を輝かせながら


「淳、ありがとう。私からも話があるんだけど」

「うん、なあに」


いつもの奈緒だと思って彼女の顔を見ていると、急に真剣な顔になり、下を向いた。

何も言わないままに、そのまま待っていると意を決したように真剣な眼差しで顔を上げ、


「淳、驚かないで聞いて・・・。赤ちゃんがお腹にいるみたい」


奈緒の言葉に頭が、一瞬真っ白になった。


「二か月前、淳に誘われた時」


確かにいつもなら、奈緒は、自分が安全な日を選んで淳を誘った。だから淳は、気にもしないで自分の思いを思い切り出した。その感覚であの時もしてしまった事を考えると確かに心当たりが有った。


「淳、どうしよう」

すがるような目で淳を見つめた。


 頭の中が真っ白だった。頭の中を何とか元に戻しつつ、奈緒の言葉を考えた。妊娠、結婚。

えーっ、自分は、もうすぐ二七、奈緒二四、でも両親には何も話してない。生活出来るの。

理解できないスパイラルに陥りながら困った顔をしていると


「淳、どうしよう」


私は、二つの期待と不安が有った。このまま淳と一緒になってもいい。淳がそう言ってくれたら。でも私はまだ二四。淳はもうすぐ二七。

どうしよう。堕胎。したくない。淳と私の宝物。


答えられない淳に、奈緒は自分では望んでいない全く反対の言葉が出た。


「淳が嫌なら堕胎してもいいよ」

涙声っぽくなりながら言う奈緒に、


「奈緒、冷静になって話そう。簡単に決められるものじゃない」


その言葉に少しだけ希望を持つとうんと頷いた。

分からない。どうすればすぐに答えを出せないままに無言の時間が、流れた。


「奈緒、二人の事だから二人でよく考えよう。まだ、両方の両親も僕たちが付き合っていること知らない。いきなり話したら、収拾が着かなくなる」


奈緒も実際の所、全く分からなかった。子供を育てるなんて、まるで遠い宇宙のかなたのことだ。他人の子供を可愛いと言っているレベルではない事ぐらいは、分かっている。


「奈緒、もし、奈緒がいいなら、外に出ないか。少し外の空気を吸おう」


うんと頷くと二人で外に出た。道玄坂は人でいっぱいだった。


「淳、お腹すいた」


気が付くといつの間にか一二時を過ぎていた。東急本店通りの方に向かい、本店前のパン屋さん兼用のレストランに入った。


奈緒は、トレイを持つと

「何食べようかな」

嬉しそう顔をして、棚に並んでいるパンを見ている。色々な菓子パンが並んでいた。


「奈緒、テーブルでもオーダー出来るよ」

「うん、でも美味しそうだから、ここからも取る」


僕は、奈緒の横顔を見ながら、頭の中はさっきの事が重く圧し掛かっていた。


カウンターで、奈緒は、トレイに取ったパンとオレンジジュースを頼むと僕もボリュームいっぱいのスクラッチビーフハムサンドとコーヒーを注文した。


精算すると、店員から番号の付いた旗を渡された。テーブルでそれを置いておけばオーダーした食べ物を持って来てくれる。


僕達は、少し奥まったところに開いているテーブルに二人で座った。

私は、自分で棚から取った菓子パンをテーブルに置くと彼の顔を見た。


「淳」

その後が続かなかった。

奈緒がすがり付くような目で僕を見ている。どうすればいいんだろう。答えがすぐに出ないことは、分かっている。

両親にこの事を離せば、返ってくる言葉は想像が付く。


 今は、二人とも自宅から通っている。結婚するとなると、二人で独立したところに住まわなくてはいけないだろう。それを考えると、自分に、奈緒と子供を育てるだけの収入がない以上、容易に奈緒に一緒になろうとは、言えなかった。


 どうすればという言葉しか浮かばなかった。

「淳・・・。私は淳の言う通りにする。でも・・本当は産みたい。淳と私の宝物・・」


下を向きながら小さな声で言うとテーブルの上に置いてあるレタスとツナの入ったパンを少しだけ口に入れた。


「奈緒・・・。僕の収入だけでは生活が出来ない。奈緒やお腹の子に辛い思いをさせてしまう」

「いい。淳と二人だった我慢する。どうしてもだめだったら、両親に言って一緒に住むことにする」


僕は、目を大きく見開くと

「とても出来ないよ。住むんだったらうちの方だよ。だけど・・まだ、親には何も言っていない」


 淳の両親は、普段から息子の事には、絶対の信頼を置いている。妹もいる。家でも奈緒と子供を育てる余裕など無かった。とても現実的な考えではなかった。


 奈緒は、泣くのを我慢するようなしぐさでパンをがむしゃらに食べていた。ただ下を向いて。


 結局、この日は、一週間ぶりにあったが、夕方には別れた。お互いによく考えようと言うことで。



―――――


これは、二人に取って一大事です。どう判断するのかな?


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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