第13話 帰国


§ 宿泊先にバーにて §


「ねえ、山之内君、彼女いるでしょう。どんな人」


僕は、竹宮さんの顔を見ながら

「いきなり、直球投げるね。竹宮さんは」

「別に、普通の友達だけだよ」


 どう見ても二か月前の電話は、彼女への電話だ。直感で分かるそう思うと、少しいたずら、してみたくなった。


「ふーん、じゃあ、私と付き合ってみる」


 僕の顔をじーっと見ながら真面目な顔で言う目の前に座る女性に

どういうつもりだ。からかっているのかなと思い、


「からかわないで下さい。竹宮さん。君ほどの人なら、両手両足の指、足しても足らないほど言い寄られるんじゃないですか」

あながちウソでもないよという感じで言うと


「ぜーんぜん、社会人に入って二年経つけど、だーれも声も掛けてくれない」


 ウソはついていなかった。声をかける人はいても、とても相手する気にならい男ばかりだった。竹宮の容姿と体目的で近付いてきたとしか思えない男だけだった。


 実際、竹宮は、美しく可愛かった。大きな瞳、すっとした鼻立ちに可愛く下唇が少しだけ厚くプリンとしている。


 すっきりした顔立ちに輝くほど手入れされた肩先まである髪の毛。色白な肌にはっきりと目立つ胸は男を引き付けて当たり前だった。


「そうなんだ」

私は彼の反応に、もう少し別の反応ないのと思いながら


「ねえ、さっき言った事ほんとよ」


大きな瞳で見つめられると少し恥ずかしくなった僕は、視線をグラスに戻した。


ふふふっ、もう少し、楽しもうかなそう思うと

「ねえ、山之内君。日本に戻ったらデートしない」


グラスに落としていた視線を横に座る女性に戻すと

「いいけど」


もう、もう少し喜べないのと思いながら

「じゃあ、そうしよう」

と言って、何気なくスマホの時計を見ると


「あっ、もう九時半だ。二時間もここに居たんだ。山之内君、部屋に戻る。女性は色々あるから」

と言って、さっと引き揚げてしまった。


 参ったな。何なんだ。それにここの飲み代、僕が払うの。ちょっとお嬢様風な対応に戸惑いながらまあいいかそう思って、バーテンにチェックアウトを言ってルームナンバーを記入するとシンガポールドル紙幣をコースターとグラスの間に挟んで椅子を降りた。


 バーテンが、嬉しそうにサンキューという言葉を背中に受けながら、僕は部屋に戻った。


 一週間のビジネストランスファーも順調にこなして、明日は帰るという最後の夕方に例によって柏木部長は、


「明日は、土曜日だ。フライトの時間は決まっているから、それぞれチェックアウトして、空港で落ち合おう」

と言うと、また後藤とオフィスを先に出て行った。


さすがに僕も

「うーん、柏木部長、海外出張慣れてるな」

と言うと


「じゃあ、私たちも早くホテルに戻ったら食事に行こう」


 シンガポールにいる間、現地の人のウエルカムディナー以外は、食事もバラバラなので私は、山之内君に頼るしかなかった。


 僕は、ほぼ仕方ないと思いながら、柏木部長が自分を一緒に連れて来たのは、竹宮さん対策かと思う程、仕事が終わると自分たちは、勝手に夜のシンガポールの街に繰り出していた。


 それだけに僕は、竹宮さんにとても優しく接した。初日の約束など忘れたかのように。 だが、それは竹宮瞳の心の中に、別の感情を抱かせる十分な一因を作っていた。顔には出していないが。


 結局、僕は、毎日ほぼ、竹宮さんと一緒の為、奈緒にお土産を街中で買うことが出来ず、空港でも一緒に付いてくる竹宮さんに妹向けと言って、奈緒の土産を買った。


エスティローダの可愛いポシェットと、綺麗な口紅のセットだ。

「山之内君、妹さん向けにしては、濃いもの買うのね」

「えっ、ああ、うちの妹は我がままだから」

奈緒の事を思うとあながちウソでもなかった。


 帰りの機内で、竹宮さんは少し疲れが出たのか、日本に帰ると言うことで気が緩んだのか、食事以外はほぼ寝ていた。


 隣に座る僕は、竹宮さんの寝顔可愛いな、つい奈緒と比較していることに一瞬だけまずいと思いながら、前シートの背中に付いているTVで暇をつぶした。


 ビデオ化されたドラマを見ていないと飛行機の方向と高さだけが表示されている。時計を見ると後、四時間で到着予定を示していた。


 羽田に到着すると竹宮さんと別れた僕は、すぐにスマホで奈緒に電話した。

もう土曜日の午後四時を過ぎていたが、僕も奈緒の声が聞きたかった。


少しの呼び出し音の後、

「奈緒、今、羽田に着いた」

「お帰り、淳」

いつもとトーンが違う奈緒の声を気にしながら


「これから家に戻る。多分、六時過ぎると思うから今日は無理だけど、明日会わないか」

「うん、勿論いいよ」

「じゃあ、十時にハチ公前交番で」

「分かった」

「じゃあ、明日ね」


 僕は、奈緒の声に戸惑いを覚えた。どうしたんだろう。いつもの奈緒なら飛びつくように今日でもいいから会いたいという言葉を予想していただけに、奈緒の声のトーンの低さに一抹の不安を覚えた。




 僕は、田園都市線の階段を急ぎ足で駆け上がると左にくるっとUターンして交番の前を見た。右手には奈緒へのお土産の入った紙袋を持っている。当然いるだろうと思って期待していたが、彼女はいなかった。


 あれっ、いつもならと思いつつ交番の方へ歩き出すと、後ろからいきなり左手を掴まれた。くるっと振り向くと


「淳、私が立っていなかったから心配したんでしょう。階段上がった時の顔に書いてあった」

「えーっ」

と言っていつもの元気のいい奈緒の声に


「どこいたの」

「へへっ、あそこ」

と言って、東急東横店の正面ガラスを指さした。あそこなら階段を上がって来た僕を正面から見ることが出来る。

交番の前にいるとばかり思っていた淳は、そちらを気にもしなかった。


「どうだったのシンガポールは」

「うん、順調に仕事できた。あっ、これ奈緒へのお土産。後で見せるから、どこかに入ろうか」

「うん」


 そう言うと二人で、目の前にある信号を渡った。日曜日、渋谷のスクランブル交差点は、人だらけだ。


―――――


さて、奈緒は、順に何を言うのかな?


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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