第9話 新たな展開1
淳は、いつもと同じ様に会社に出社するとデスクでPCを立ち上げてメールを読もうとしていた。その時、後ろから声が掛かった。
「山之内、今時間あるか」
声の方向に振り返ると
「柏木部長」
少し間を置いて
「はい、大丈夫です」
「ちょっと来てくれ」
まだ朝早いせいか、予約もしていないが開いている会議室の一つに入った。
「どうだ、仕事は」
「ええ、順調にこなしています」
「そうか。ところで、お前も知っているわが社が独自開発したシステムを海外に展開することになった。本社からの指示だ」
黙ったまま、聞いていると柏木は続けた。
「今、日本語の仕様を英文に書き換えた後、手始めにそれをシンガポールに展開する。実働は、現地人が行うが、英文の仕様の説明を彼らにしなければいけない。勿論、こちらに来てもらうが、少しは、向こうでも説明を必要とする」
「インターネットでは出来ないのですか」
「それだけでは、不足のこともある。なぜお前に話しているか。理由は言わなくてもわかるな。このプロジェクトは、来週から開始する。事前ミーティングが今週中にある。それに出席して概要を掴んでくれ」
断ることなど出来るはずもなく、また、成功すれば自分にとって限りなくプラスであることを考えると直ぐに引き受けたいところだが、
「今抱えているプロジェクトが二つあります。並行で行うのは厳しいですが」
「ああ、それについては、引き継ぎを考えている。それまでは、何とか継続してくれ」
少し納得は行かないままに
「分かりました」
と答えると、柏木は、会議室を出て行った。
一時間後、メールで水曜日に概要説明会を開く故の通知が有った。開催時間は、午後五時からだ。
奈緒には会えないなそう思うと、まだ火曜日であることを考えるとスマホのラインで奈緒に連絡した。これをすれば、周りに分からずにチャットが出来る。
『奈緒、ごめん、明日は、夕方から会議が入った。会えない』
『何時に終わるの』
『午後五時から始まるから七時を超えると思う』
『だったら、待っている、淳は、三〇分で来れるでしょ。八時から会っても二時間は会っていられる』
奈緒の強気に少しだけ微笑むと
『分かった。終わり次第、連絡するから』
『分かった』
返信を確認してスマホをオフにした。
水曜日の午後五時に指定の会議室に行くと柏木部長を始めとして六人のメンバが居た。その中に部署が違うはずの竹宮瞳がいた。
僕が会議室に入ると
「山之内君、久しぶりね」
「はい、竹宮さんも元気そうですね」
僕達は、同期入社だ。僕は、最初からシステム部だったが、竹宮さんは、インダストリーコンサル部へ行った後、営業に行ったと、同期の別の人間から聞いている。仕事柄、あまり会うことがない。
やがて、会議が柏木部長のプロジェクト主旨説明から始まると段々と深くなっていた。竹宮さんは、今回のプロジェクトの営業面でのメンバらしい。
僕も積極的に発言をして、結局終わったのは、七時半を過ぎていた。
参ったな、奈緒待っているだろうなそう思いながらスマホをポケットから取ろうとすると
「山之内君。どう久々に会ったし、他の人たちとちょっと行かない」
竹宮さんの声に、躊躇すると
「そうか、その顔は約束が有ったのね。こういう日は入れない方がいいよ」
といって自分の側を離れた。
君に言われる筋合いはないと思いつつ、入社時から目立っていた竹宮さんの後姿を見た。引き込まれそうな素敵な後姿だ。ちょっとはにかむ様に微笑むと急いでスマホのラインを見た。
やっぱりきている。奈緒からいつ終わるのというメッセージが入っている。
着信は七時二〇分だ。今、七時四〇分。急いでスマホに手をやると奈緒の電話番号にタップした。少しの呼び出し音の後、
「淳、遅い。もう七時四〇分だよ」
一方的に言う奈緒に、苦笑いすると
「分かった、すぐに行く。レンタルショップビルの一階のコーヒーショップで待っていて。あそこなら人も多いし」
「分かった」
そう言うと僕は、スマホの電話をオフにして、急いで会議室を出た。その様子を竹宮瞳は、見ていた。
「ふーん、山之内君、彼女いるんだ」
竹宮瞳は、淳より二つ下の二五歳だ。淳は院卒だが、竹宮さんが学士で入っている。その容姿を買われたのは、間違いなかった。勿論成績も抜群だが。
僕は、走るようにして地下鉄駅まで行き銀座線に乗ると結構人がいた。
こんな時間でも、結構いるなと思いつつ、いつものように渋谷方面銀座線の先頭車両に乗った。
淳、早く来ないかな。まだかな、本を開きながらちらっとスマホの時計を見た。
八時五分。もう少しかなと思いながら、止まり木の様なカウンタの椅子で待っていると、急に右肩を触った人がいた。
何と思って振り向くと
「ごめん、奈緒待った」
急に笑顔に変わっていきながら
「もう、待ったぁ。待ったぁ」
思い切り甘えた声で言う奈緒に
「分かった、じゃあ、奈緒の好きなものごちそうする。何がいい」
「ほんとー」
ますます、嬉しそうな顔に変わりながら
「じゃあ、たまには、お寿司食べたいな」
「えーっ」
一瞬、声が大きくなったのに気が付いた僕は、自分の右手で口を塞ぐ仕草をすると
「だって、いま、奈緒の好きなものって言ったじゃない」
そりゃ、そうでだけど。給料日まで一週間なのにと思いながらまあ仕方ないかと割り切ると
「よし、じゃあ行こう」
そう言って淳は、微笑んだ。
―――――
奈緒子さん、大分平常心に戻ったみたいですね。
そして新しいキャラ。竹宮瞳。今後、山之内淳に色々絡んできます。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
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