第6話 揺れる心


長らく投稿出来ていなく済みません。


なるべく毎日十二時投稿するようにします。


二人で行った一泊旅行から帰って来てからのお話です。


―――――


 どうしたんだろう。淳と別れた後、家に戻りながら自分自身が理解できないでいた。


私の事、嫌いではないのだろうけど思う気持ちの中で、少しの不安が、今回の旅行に心を動かされた理由かもしれない。彼の気持ちを知りたかったのかもしれない。そして彼は優しくしてくれた。


 淳は私を僕の大切な人と言ってくれた。そう考えると少し重かった心が軽くなった。ほんの少しの不安を除けば。



 僕は、車を三軒茶屋で返した後、心が少しだけ重かった。成り行きとはいえ、奈緒と体を合わせてしまった事に。


 こんなに急がなくても。そんな気持ちだった。輝くほどに綺麗な髪の毛に大きな切れ長の瞳。本当に可愛いまでの顔立ちは、一緒に歩いていると前から来る男たちが必ず奈緒の事を見ていく。


始めは、嬉しい気持ちもあったが、最近は、奈緒を見る視線を送る男を突き刺すように見ていた。守りたかった。誰にも渡したくなかった。でも、それ以上は頭の中に考えはなかった。


 今度の旅行もほんのかすかな期待と、奈緒が行きたいという気持ちを、大切にしたいという心の中で一緒に行った。結果は、既に出てしまった。


これからどうすれば奈緒と今まで通りに会えるのか自信がなかった。自分の心の中にある、鎖で縛っていたものが、解き放たれるのが怖かった。

あれ程に素敵な女性。自分が初めてと言ってくれた。事実そうだった。どうしようという思いだけが残った。



 研修で疲れた振りをして家に帰ると

「お母さん、お風呂入りたい。疲れた」

「えーっ、まだ、三時半ですよ」

「でもーっ」

「分かりました。すぐに用意してあげます」


お母さんに心の中でごめんなさいと言うと、自分の部屋のある二階に上がった。まだ、彼の余韻が、自分の体に間違いなく残っていた。

 


次の日、会社に出ると

「一ツ橋さん、おはよう。なんかすっきりしているね」

同期に中岡が、声をかけて来た。


「そうですか」

「うん、いつもより輝いて見える」

そう言って斜め前の自分の席に座るとなぜかVサインを出してにこっと笑った。


なんだろうと思いながら奈緒も自分の席に座ると、いつものようにデスクにあるPCの電源をオンにした。


 昼休みになると、中岡が、

「一ツ橋さん、お昼一緒に行かない」


断る理由もないままに近くのスパゲティ専門店に行くとオーダーをした後にいきなり

「ねえ、この週末に何かあったの。顔に書いてあるわよ」


えっと思って一瞬戸惑った顔をすると

「あっ、やっぱり。一ツ橋さんは、あっちの経験薄そうだから聞いてみたらやっぱり」

そう言って嬉しそうに目元を緩めた。


「何もないですよ。ずっと家に居たし」

「ふーん」


運ばれてきたスパゲティをスプーンの上でフォークに巻きながら言う中岡に

「中岡さんは」

その意味をどう捉えたのか、


「私は、彼要るし。二年も付き合っていれば・・ねえ」

あはっ、そういう意味かスパゲティを口に入れる目の前の同期の女性を見ながら


「残念でした。お腹痛くて土曜日曜と家に居たの。日曜だけ買い物に行ってその後、マッサージサロンにお母様と一緒に行ったから」

そう言うと自分もスパゲティを口にした。



 午後四時近くになると席を離れた。トイレに行く振りをして外に出ると淳に電話した。数回のコールの後、


「はい」

「淳、いま話せる」

「ちょっと待って。このまま」

 どこかに移動しているらしい音が聞こえた後、


「奈緒、いいよ」

「淳、会いたい。渋谷のハチ公交番の前。六時でいい」

「分かった」

「じゃあ」


口の少ない淳に一瞬だけ寂しさを感じながら仕事中だったから仕方ないかそう思ってスマホをオフにした。


僕は、虎の門にある、新しく建てられたビルの二七階のオフィスで、デスクにオントップにしている時計を見ると五時二五分を回るところだった。


今から向かえばちょうどいいそう思いながらサイドデスクのカギをフリーからロックにすると、PCの画面ボタンだけをオフにして席を立った。


PCの電源をオンにしておけばデスクトップ機能で外から検索可能だ。奈緒と会った後、家に戻ってから資料を読むことが出来る。


数年前、この機能をバックプロセスで動かしてハッキングした男がいたが、警察は、こんな知っていれば誰でも分かる単純な仕組みを気づかずに、ハッキングされた他人を犯人にしたニュースを思い出し、ちょっとだけ微笑むと席を後にした。


今はFWゲートとPAMによって完全にガードがかけられている。ちょっとした知識では、侵入出来ないことを知っているだけに、お役所の仕事にちょっと笑いがでた。


 僕は、ビルを出ると、虎の門の地下鉄に乗る為、青山方面から新橋まで虎の門の交差点を通過して走る大きな道路の交差点を渡った。


会社に出社する時と反対方向から乗らないと銀座線を大きく迂回する地下道路を歩かなければいけない為、道路の反対側から地下鉄に入るのだ。


 渋谷方面の銀座線ホーム改札に入ると帰宅時間だからか、ずいぶん人が多い。朝ほどではないにしても淳は、人に流れのままに一車両目に乗ると渋谷へ向かった。


渋谷のホームに着くと先頭に行くように右方向に行き、下りのエスカレータに乗る。こうすれば、奈緒と約束しているハチ公前交番にすぐに行けるからだ。


 エスカレータを乗り継ぎながら一階まで来ると左に曲がった。ガラス扉の向こうにハチ公前交番の前に立っている奈緒が見える。


不安そうな顔をしながら少しうつむき加減に立っていた。通り過ぎる男たちが奈緒を見ているのがはっきり分かる。


 僕は、奈緒から視線を外さないように歩いて行くと視線を感じたのか、うつむき加減だった顔を起こしてゆっくりと左に顔を向けた。


 僕と視線が合うと急に笑顔になった。嬉しそうな顔に変わっていく。僕も微笑みながら近付くと奈緒がこちら歩いて来た。


 奈緒はそのまま僕の胸に自分の顔を埋めると腕を背中に回した。

僕は何もしないままに立っていると周りの二人の側を通り過ぎていく人たちがニタニタしているのが分かる。

 

奈緒の両方の肩に自分の手を優しく包む様に添えると

「奈緒」


ゆっくりと顔が上を向き始めた。

「淳、ごめん。ただ会いたくて。淳の顔を見たら、不安とも嬉しさとも分からない気持ちがこみ上げて来て、こうしたくなった」

「奈緒、分かった。でも、少しだけ離れよう」


口を耳元に近づけると

「僕も奈緒を抱きしめたいけど人が見ている。ねっ」

そう言って、ゆっくりと奈緒の体を自分から離した。


淳の言葉に自分も体を離すと、まだ自分の肩にかかっている淳の右手を、自分の右手で触りゆっくりと降ろして自分の左手に持ち替えた。

そして淳の右側に来ると淳を見つめた。


「奈緒、歩こうか」

頭だけで軽く頷くとハチ公前の交差点方向を見た。




―――――


やはり、奈緒子さん。初めての事だけに心が揺れています。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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