第5話 二人だけのお泊り3


テーブルが、窓際方向に動かされてお布団が二つ並べて敷いてある。奈緒は、気にもしないで、窓の側に動かされているテーブルには座らずに、ベランダにある椅子に行くと

「淳、こっちにしよう」

と言って手招きした。


淳は、奈緒と自分のグラスをサイドテーブルに置くと自分も椅子に座った。

「淳、綺麗だね。来てよかった」

「うん」


目の間に広がる暗闇の中に、波打ち際の音だけが聞こえてくる。静かだった。何も話さずにしていると奈緒が、自分のグラスを持って口をつけて


「淳も飲まない」


そう言って淳の顔を見た。少しだけ緊張した顔をしている。


「淳、初めてなの。男の人と二人で旅行なんて」


少し、間を置くともう一度グラスに口を付けて


「勢いで来ちゃったけど、ちょっとだけ怖い」


 奈緒の両親は、いわゆる普通の親で、干渉もあまりしないが、叱る時は叱るという感じだ。奈緒の事は全面的に信頼している。


 中学、高校、大学と常に中の上か、上の中を行き、いわゆる頭のいい子の部類に入っていた。


 行いも品行方正な方だ。勉強では遅くまで起きていたが、ゲームとか、流行の事には、興味も示さず、普通に過ごしてきた。


 友達が、男の子と恋仲だかとか、キスをしたとか言っても何も興味がなかった。

だから今回の旅行は、自分にとっては晴天の霹靂のはずだった。だが、なぜか普通に体が動いた。まして、自分から誘うなんて思いもよらなかった。


 実際にアルコールが入って気が緩んでいるにも関わらず、なんとなく急に冷静な頭が半分戻って来ている部分が、未知の事に対する不安と期待に渦巻く心の整理を出来ないでいた。


 奈緒の言葉を聞きながら、何も言わないでいた。

 僕自身、今回の旅行で意図的に奈緒の体をほしがるような発想はなかった。奈緒が行きたいから連れて行ってあげる程度に考えていた。

だから、奈緒の言葉に戸惑いを覚えた。


僕は、学生の時と会社に入って二年目の時の二回ほど、女性とは体を合わせたことがある。学生の時は、彼女と呼べるほどではなかったが勢いのままだった。


 二回目は、近くのスナックで意気投合した年上の女性となんとなく行ってしまった。二人とも一年程度しか続かなかった。理由はよくわからない。


 それだけに奈緒の事は大切にしたかった。自分から見ればとても魅力的な女性である面と妹みたいに大切にしたい面の二つが心の中に有った。だから今回の旅行も奈緒がいやなら何もしないでいようと考えていた。


 ゆっくりとグラスを手に取ると奈緒の方は見ずに海の波打ち際から聞こえてくる水の音を耳にしながら

「奈緒の心のままでいいよ。楽しい旅行だから」


そう言ってグラスの中にあるロックアイスと漂うジャックダニエルの香りを鼻に感じながら口に付けた。



羽毛とすぐにわかるふわっと軽い上掛けを上げて別々のお布団に入ると

「お休み」

と言って、リモコンで消灯した。


「淳、真っ暗にしないで。怖い」

耳元に聞こえる声に再度リモコンでスモールライトだけつけると、そのまま眠りにつこうとした。


 アルコールの勢いで眠気が襲ってくる一方で奈緒の事も気になった。純粋に男からすれば、非常に魅力的な女性であるには、間違いない。


 頭の中で少しだけ意識のある部分を起こしながら、奈緒の方に体を向けると、奈緒がじっとこちらを見ていた。

 何も言わずに少しの時間が経った後、


「来る」

と言うと頷いて、何も言わずに淳のお布団の中に入ってきた。


「淳、初めてなの。何も知らない。男の人好きになったのも淳が初めて」

そう言って、淳の胸元に顔をうずめた。目元に涙が溜まっていて、淳は自分の胸が濡れるのを感じた。

 


 カーテンからこぼれる朝日に目を覚ますと奈緒が、気持ちよさそうに自分の腕の中で目をつむっていた。浴衣の前は、完全にほどけて、吸い込まれるような透き通った肌と外観では分からなかった豊満な胸が、夕べの事を物語っていた。


 天使の様に可愛い寝顔。ゆっくりとおでこにキスをすると、目がゆっくりと開いた。少し恥ずかしそうな顔をして、見えている胸元を閉めると、目をつむった。

 

 唇を当てた。マシュマロの様に柔らかく小さな唇が、一生懸命自分に合わせてくる。自然と手が奈緒の胸に行った。

「うっ」


まだ小さく、可愛い乳首を唇でキスしてあげると、可愛い声を出して喘いだ。


 昨日の夜の様に自然と同じようになった。夕べと違い、今は明るい。奈緒子の体がはっきり見える。胸からお腹、そしてあそこまで口付けしながら降りて行くと、まだ、美しいまでに綺麗な色をしたあそこが有った。

 

 優しくキスをするようにしてあげると、大きな声を出し始めた。外に聞こえのではないかと心配するくらいに。


 最後にゆっくりと入れてあげると奈緒子は昨夜の恥じらいと痛みとは、全く別の感情を思い切り体で表現していた。



「ふふふっ、これで奈緒は、淳の恋人って言ってもいいよね」


 体を合わせている時の反応と甘えっこのようなこの笑顔のギャップに目元を緩ますと


「うん、奈緒は、僕の大切な人だよ」

そう言って、もう一度、唇を合わせた。


帰りの車の中で奈緒は、静かになったと思うと急にお喋りになったり、また静になったりと忙しかった。たぶん初めての事に心が揺れ動いているのが分かった。


東名用賀インターを降りて用中通りに入ると

「奈緒、家まで送る訳にはいかないよね」

「うん、経堂の駅で降ろして」

「分かった」


 経堂で降りる時、奈緒は、じーっと淳の顔を見て、

「ねえ、明日も会ってくれる」

「えっ、明日」


いつも土曜か日曜のいずれかだったので少し戸惑ったが、

「いいよ」

と言うとにこっとして、

「じゃあ、電話するね」

と言って車から離れた。

淳は、コーティ方向に歩いて行く後姿を見えなくなるまで見送ると家に戻った。


―――――


ふむ。二人は一歩踏み出したというところですか。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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