第2話 二人だけの秘密


 奈緒(一橋奈緒子)と知り合ってから、土曜と日曜は、いつも彼女と一緒。今日も表参道にあるカフェテリアに来ている。


特に意味のない会話をしていると、急に奈緒が、話を変えた。


「淳、いつもはどうしているの」

「えっ」

「えっじゃなくて、土曜とか日曜日。私と会っていない時」

「うーん。特に。水泳位かな」

「水泳?」


頭にクエスチョンマークを描きながら

「ふーん、そうなんだ。誰と行くの」

なんだこの子はと思いながら


「別に、一人だけど」

「ふーん」


奈緒が返す返事に

「ふーんじゃなくて、聞いたんだから別の反応ないの」

「だって、もう少し、別の言葉が返ってくると思っていたから」


グラスの中の淡いブルーの液体とロックアイスをストローで回していると


「奈緒は、土曜や日曜何しているの」

全く同じ言葉を返された。


「今、こうしている」

淳は、椅子から滑りそうになりながら


「それ、答えになってない。僕と会っていない時の話」

顔を上げて淳の瞳の中を覗くようにじっと見つめると


「土曜と日曜は、こうして淳と会っている」

頭の中でもうと思うと、


「分かった」

今度は、淳が、下を向いてグラスに入っている透明の泡が立っている液体とロックアイスをストローでかき回し始めた。


 奈緒は、肩から背中にかけて輝くように伸びている髪の毛の胸の方に掛かっている髪をから軽く持ち上げながら後ろに回して、そっと淳を見た。


淳に言ってみよう。断られたら仕方ないけど、淳だったら・・・。


「淳、今度の休みどこか行かない」

「どこかって」

「あまり遠くないところ。一泊するの。二人だけで」

「えっ」


 淳は、グラスの中を見ていた視線を上げると奈緒の目に映る自分を見た。ゆっくりと頷くと


「いいよ。どこに行きたいの」

「小田急か京王で簡単に行けるところがいいな」


 僕は、少しだけ頭の中を回しながら小田急か京王だと箱根しかない。でも箱根じゃなあ。

奈緒は淳の頭に浮かぶ事を読み取ったのか、


「じゃあ、西伊豆にする。でも車必要だよ。運転できるの」

少しだけ、からかうように言うと


「運転は出来るよ。まあ、レンタカーを借りればいいだけだし」

一瞬、奈緒の目が輝いた。


「じゃあ、そうしよう。泊まる所だけ決めて後は、気のままに行こう」


この子、どういうつもりなんだろ。何気なく凄い事言うな。


さっき二人だけと言っていたし、自分でもちょっとだけ消化しきれない奈緒の考えに、なんとなく視線が奈緒の目から口へそして胸元へと流れた。


「淳、どこ見ているの」

少し目をいたずらにして上目使いにするとぷいっとした顔にした。


「エッチな事考えなかった。今。あーっ、二人だけと言ったから、期待したでしょ。だめですからね」


 二人だけで行こうと言いながら、そっちはだめ理解しきれない頭にクエスチョンマークを一杯立てながら、

「考えてない、考えてない」

と言って下を向いた。



「淳、珍しいわね。あなたが、会社の同僚と旅行だなんて」

「まあ、たまには。毎回断ってもね。と言う訳で今回は行くことにした」

「どこへ行くの」

「西伊豆」

「うわーっ、いいな。お母さんも行ってみたい。西伊豆のどこ」

「戸田の方。温泉に入って海の向こうに見える富士山が、見えるらしい」

「えーっ、いいな。今度お母さんも連れって」

「お父さんと行けばいいじゃないか」


そう言って、いつも仕事でいない父親が座る椅子を見ると


「そうだね、親父は、後から来ると言うことで」

そう言ってにこっとするとテレビの方に視線を向けた。


 そんなことを思い出しながら、家を出た淳は、そのまま用賀の駅に近くまで来た時、話しても良かったのかな、でも心配するし。


と思うと、それを振り払うように急ぎ足で階段を改札方向に降りて行った。


 僕は、田園都市線の三軒茶屋でレンタカーを借りると、奈緒に指定された小田急経堂駅の小田急線のガード下で待った。ほどなくOX側から歩いて来た。


 爽やかな淡いブルーのブラウスに薄い白のカーデガン、少し茶系のスカートに、白いソックスと歩きやすそうなスニーカを履いている。


白い大きな縁広の帽子をかぶって、手には、やや大きめのバッグと小物用のハンドバックを持っていた。

一泊なのに、女の子って荷物多いのかな。


なんとはない疑問を抱きながら、運転席側のドアを開けて外に出て、後部座席のドアを開けると

「奈緒、大きなバッグは後部座席において」

「うん」


 嬉しそうな顔をしながら淳の言われた通りにすると自分で助手席のドアを開けた。既に自分の荷物も後部座席に置いてある。


「淳、すぐに分かった?」

「うん、ちょっと面倒かなと思ったけど、ナビを見たら思ったより簡単だった」


そう言いながら、ブレーキペダルを踏んで、ハンドルの右についているスタートボタンを押すと静かにエンジンが掛かり、ナビパネルやダッシュボードにある計器類に光が照らされた。


「最近は、エンジンキーがないから楽だね」


私、そう言われてもそもそも運転免許を持っていない。楽も大変も分からないままに


「ふーん、車の事あまりわからない、ごめんね。でも素敵な車ね。それに大きい」

淳が、自分の方に視線を流すと


「うん、奈緒と初めてのドライブだし、ゆっくりと二人で乗れる車を選んだ。それと前はね、エンジンキーを差し込んで、向こう側に回す手順をしていたから、それと比べると楽になったんだ」


 サイドブレーキを左足で押してフリー状態にすると、ゆっくりと車を動かし始めた。OXの脇の道を通って、小田急の線路沿いに二〇〇メートル程走ると信号がある。ガードをくぐるように左に曲がり、坂を三〇〇メートル程上ると農大通りの信号に出た。


更にそれを左に行き、S字に大きく曲がる道路を少し行くと世田谷通りの信号だ。奈緒が不思議そうに淳の顔を見ている。


いつもおしゃべりな奈緒が、やたら静かなので淳は、

「どうしたの奈緒、静かだけど」


ちょっとだけ間が有った後、

「淳、ご両親になんて言って来たの」

「えっ」


 真剣な顔で自分を見つめる奈緒の視線を感じながら、青になった信号を右折するとすぐに左折して用中通りに入った。


「うん、会社の同僚と西伊豆に行くと言っておいた」

「ふーん」

少しだけ寂しそうな顔をすると


「どうしたの、奈緒」

「ううん、何でもない」

「奈緒は、なんて言って来たの」

「ふふっ、淳とお泊りに行くって言っておいた」

「えーっ」

さすがにドキっとして


「それじゃ、反対されただろう」

「ふふっ、嘘よ。だって、淳と会っていることも教えていないよ」

一瞬、滑りそうになりながらまったくと思うと


「会社の研修会と言っておいた。まだ会社入って半年だし、全然疑わなかった」

「そう」


今度は、自分が少しだけ心に違和感・・罪悪感・・を感じた。


まあいいかそう思うと用賀四丁目の信号が、もう目の前だった。すぐに右折するとそのまま、環八方向へ走った。



―――――


奈緒子さん、淳さん。皆には内緒のお泊りデートですか。!!



面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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