地下鉄ホームで知った君が僕と結婚するまで(旧題:恋の始まりは電車の中で)
@kanako_01
第1話 プロローグ
私は、一ツ橋奈緒子、二三歳。ちょっと自己紹介。
今年入社の外資系医療企業に勤める女性です。毎朝、手入れしている髪は、胸元まで延び、切れ長の大きな瞳にすっと通った鼻、可愛い唇に透き通る程に素敵な肌、少し大きめの胸。
自分で言うのも恥ずかしいけど、学生時代から少しはモテた。でも今は、彼氏なし。もちろんあっちの経験もゼロ。
私の彼氏、いやこれから彼になる予定の男性は、山之内淳、二六歳。
外資系のIT企業に勤めながら、プライベートでは、ムーンライトプログラマや小説を書くマルチな才能を持っている。私には、全く分からないけど。
人前に出るのが好きでないらしく、どちらかと言うと自分は後ろにいて、フロントで人が動いてくれるのが好きなタイプの男性。
身長一七八センチ。短めの青黒い髪の毛に細面の顔立ちで、街で歩いていても特に目立つタイプではない。ちょっと安心。
淳と初めて会ったのは、三か月前、ほんの些細なことがきっかけだった。
田園都市線の通勤電車の中で、三軒茶屋から乗ろうとする私が、ぎゅうぎゅうの中で、入ろうとした時、全く体が入らなかった。
背中から入ろうとしたが、体が半分程度しか入らない。ドアが閉まり始めた時、いつもなら駅員が荷物を押してくれるのにその時だけは、いなかった。
ドアにハンドバックと傘が挟まれてどうにもならない時、左隣にいた男の人が、強引にドアを抑えてなんとか自分のバッグを入れようとしたが、どうにもならない。仕方なく降りて次の電車にしようとした時、スッと左の男の人が降りた。
そして両手で私のバッグと傘をドアの中に入れてドアが閉まった時、ふっと微笑んで、左手を上げて軽く手を振った。
信じられなかった。今時こんな人いるはずがない。そう思っても既に電車は走り始めていた。
ドアの内側から見ると何もなかったかのように彼は次の電車を待っていた。周りの人も何もなかったかのような顔をしている。誰なの。そう思いながら表参道の駅を降りた。
忘れられなかった。でも次の日もその次の日も、あの時の人はいなかった。
心の中でその人の存在が大きくなっていく中で、一週間後、同じ時間に三軒茶屋から乗ろうとして、いつものぎゅうぎゅうの状態の田園都市線がホームに入って来て、開いたドアを見た時、心が破裂しそうになった。
彼がいる。そう思っていると後ろから強引に彼の側に押された。
何も言えずに、恐ろしい位の込み具合の中で彼の体に自分の体が密着していた。ただ下を向きながらいると、彼が、ドアに手を置いて力を込めると少しだけ楽になった。
顔を上げると、なんとなく彼が微笑んでいるような気がした。表参道について降りようとしたが、彼が降りないのでそのまま乗ってしまった。
彼は、二つ先の永田町で降りた。自分も降りると彼がゆっくりと左方向に行くので自分もつい同じ方向に行こうとするといきなり振り向いて
「あの、すみません」
いきなり声をかけられて驚いていると
「いつも表参道で降りますよね。今日は、何かあるのですか」
彼は自分を見ていた。驚いたままに動かないでいると
「すみません。なんか余分なこと言ってしまったみたいで」
頭を下げるとその場を立ち去ろうとした。
私は今あるすべてのエネルギーを振り絞って
「あの」
それだけしか言えなかった。だが、彼は、振り返ると微笑んでじっと私を見た。
他の人たちが不思議そうに見ている。
あれからだった。淳となんとなく会い始めたのは。
特にどちらからでもない。ただ、あれがきっかけで、もっと相手を知りたいという気持ちが有った。
だけど、彼は別に積極的に来るわけでもなく、だからと言って私の要求を一度も断ることはなかった。いつだったか、映画を見た後、
「淳、おいしいフランス料理食べたい」
と言うと
「いいよ」
と言って、携帯でどこかに電話した後、私をタクシーに乗せて赤坂にある有名なホテルの最上階のレストランに連れて行ってくれた。
えっと思ったが、美味しい食事の後、素敵なバーまで連れて行ってくれた。
こんな時は、そうなんだろうなと思って、心に決めた時もあったが、そんな時でもバーの後、
「もう、九時半だ。送っていくよ」
と言って家の近くまでタクシーで送ってくれた。
決して家の前ではなく。手をつなぐこともキスさえも何も要求しなかった。
私の事、嫌いではないのだろうけれど。
思う気持ちの中で、少しの不安が、私に有る決心をさせた。
彼の気持ちを知りたかったのかもしれない。
―――――
奈緒子さんの決意とはなんでしょうかね。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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