大切な約束

 学園の中はいつも春みたいにあったかい。


「ここっていつも暖かいよね。どうなってるのかな」

「んー、誰かが作った場所みたいだけど。その誰かは記録されていないんだって」

「そっか、まるで初代魔王達みたいだね」

「ここ以外にも、ほら大きな塔、覚えてない? ここにきた時に見た」

「あ、あった。塔の上の方が途中でないのにその上が続いてるの」

「そうそう、それ。たくさんの魔法が使われているから、もしかしたら初めの魔王が作ったのかもしれないね」


 結愛がいつもより口数多く話している気がする。


「ねえ、結愛? どこに向かってるの?」


 麻美が結愛に聞く。


「少しだけ行きたいとこがあるんだ。一人じゃ怖くて」


 そう言って結愛は進み続ける。


「怖い場所なんてあるの?」


 イソラに聞いても思い浮かばないようで考え込んでいた。


「ここだよ」


 結愛が連れてきたのは、学園の敷地の端にある赤い花が咲く花壇だった。


「この花はリリーティアだよね」


 二人の名前になった花。赤くて小さい。けれど、どこでだって咲き誇るとても強い花。


「すずちゃん、花言葉は知ってる?」


 結愛は歩みを止めず進み続ける。


「知ってるよ。二人の名前を決める時にヨウに聞いたもの」


 ふと、どこかにたどり着いたのか結愛の歩みが止まった。そこに手を伸ばし確かめるように何かを探していた。


「強い想いそれと大切な約束」


 ピタリと手が止まると、そこから目が離せないのかじっとその場所を見つめていた。


「何、何があるの?」


 麻美が近寄ろうとすると結愛はこちらを見て薄く微笑む。


「ううん、何もないよ。ただここだけ、小さな虫食いがあるなーって思っただけ」

「あ、ほんとだ。小さい穴があいてる」


 麻美が覗き込む時に結愛は手をそっと隠すように後ろに回していた。


 ◇


「ゆあちゃん、聞いてもいいかな」

「ん?」


 帰り道、小さな声で結愛に聞いた。


「それ、何だったの?」


 結愛は耳に小さなイヤーカフをつけていた。


「これ? 頼まれもの……。全部隠しちゃうのはフェアじゃないかなって」

「……そっか」


 結愛の顔を見るとスズのことで悩んでた私がなんとなく被って見えた。

 結愛にも入れ替わった人がいた。その人の何かだったのかもしれない。

 私はそれ以上何かを結愛に聞くのはやめた。

 彼女が決めることだろうと思って。


「すずめ!」

「ヨウ!」


 ヨウもクランも帰りを待っていたみたいだった。ヨウが笑顔で出迎えてくれる。


「おかえり」

「うん、ただいま」


 ちらりと横を見る。結愛はクランのもとへと歩いていく。


「結愛、おかえり」

「ただいま、


 二人がどうなるのか私にはわからないけど、出来れば幸せになって欲しいな。

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