私は私(結愛視点)

「何かわかったか?」


 日記を全部読んだあと、クランにこれを返す為また彼の部屋にきた。クランは何かを探すように私を見てくる。


「何もわからなかった」


 目をそらし私は嘘をついた。書いてある言葉全部その日の出来事をつらつらと並べているただの日記だったのだが、私には彼女のその時の気持ちが全部わかった。

 そう、読み取った感情は全部、私の中にあったものだ。だけど、私はこの事に蓋をする。


「そうか」


 残念そうにするクランを見て、私の心が揺れる。

 でも、私だって……。

 確かに出会いやきっかけは入れ替わった彼女のものだったのかもしれない。だけど、負けたくない。

 だって、私はクランが好きなの。たとえこの気持ちすら、彼女のものだったとしても、どうしようもなく彼に惹かれてしまう。


「ごめんなさい」

「あぁ、いや、覚えてやれなかったオレ様が悪いんだ。結愛は気にしないで欲しい」


 チクリと胸にトゲがささる。


「そうだ。ヨウが今度学園にくるらしいから、色々決めないとな」


 クランは私の様子を見て、何か気がついたのだろうか。突然話題を変えてきた。


「すずちゃん達もくるのかな」

「どうだろう? あの子達が、近くにいると泣き出した時に大変だからなぁ」


 鈴芽とヨウは二人の赤ちゃんを育てている。二人のといっても鈴芽とヨウの赤ちゃんではない。男の子、女の子、二人の赤ちゃんという意味だ。

 この赤ちゃん達は、たぶん新しい魔王で、魔人の角同士が繋がっているらしく、近いほど影響も大きい。

 赤ちゃん達が泣き出しちゃうと近くの角持ち達皆泣き出しちゃう。泣き止ませるには、鈴芽が歌うしかないみたいで――。


「会いたいなぁ」


 そんな訳で赤ちゃんの面倒をみる鈴芽とは当分会えないと思っていた。


「こっちからも出向けるようにするさ」


 ナグカルカとセキドガーグの二国は比較的穏やかになった。

 国を統べるものが角持ちだから。

 ファイスヴェードはまだ、開くつもりはないらしい。

 鎖国状態だ。


「皆が仲良く出来ればいいのに」


 ポツリと言うとクランが近づいてきて、髪にそっと触れてきた。


「三人も仲がいい聖女様がいるんだ。出来るさ、きっと」

「そうだね」

「さ、今日はもう休もうぜ」


 ポンッと一回頭に手を置かれた。すぐに離れた手を私は追いかけて握りしめる。


「クランさん」

「な、なんだ」


 クランはたじろぎながら手の自由を取り返そうと軽く引かれる。私はその手を離さない。


「私はクランさんが」

「ん?」


 何を思ったのかクランは私の手ごと動かし言おうとした口を塞いだ。


「オレ様が言うまで待ってくれないか」

「――」


 え――?

 私が止まったのを確認して、手を離してくれた。


「えっと……」

「オレ様が言うまで待っててくれ」


 それって、待ってていいのかな。

 見上げるとクランは、指で頬を掻いていた。


「学園の成績、負けたままじゃ、悔しいからな」


 私は笑う。もうこんなことになって成績は関係ないのに。あなたは私の一番だよ……。


「えっと、一番は譲らないですよ? それでも?」

「オレ様が一番だ。だから、それまでそのまま待ってろ。すぐに一番になる」


 ごめんなさい。カラーリャ。私は、この人が好きなの。

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