赤い花と秘密(結愛視点)

 彼女の名前はカラーリャ。学園で一番成績のいい人。角持ち。そして私達を呼び出す日、あの国に一緒にいた人物だったみたい。異世界から呼び出す為の魔法使いとして。


 ◇


「オレ様は一番になる! お前が二番だ! いいな」


 今日もアイツがきた。私に初回テストで負けた男、クラン。銀色の短い髪を逆立て、まるで小動物のようだ。そんなに悔しいのかな? じゅうぶんにいい成績であると思うのだけれど。


「――私、一番で居続けるつもりです」


 この人がなのか知らない。だって、ここではだいたいの人が変化の魔法をかけているから。名前だってそう。本当の名前は使えない。魔人みたいな私達に課せられた呪い。だから、クランという名前もこの人の本当ではないのだろう。


「見てろ! すぐ抜かしてやるからな! オレ様の眷属獣をみて腰を抜かすなよ!」


 次の授業では眷属獣のチェックだった。あの自信はどこからくるのか……。私は自分の中にいる獣、ヴァイスと一緒に笑った。


 ◇


 なるほど、これは素直に認めたい。クランが名を呼ぶと黒い獣が姿を見せる。


「黒いドラゴンか」


 彼の眷属獣はドラゴンだった。これはなかなかお目にかかれない、かなりレアな獣だ。


「どうだ! 今なら泣いて謝れば――」

「ヴァイス!」


 私は自分の眷属獣を呼ぶ。

 白い竜が姿を見せると、クランは目を大きく開いていた。


「言ったでしょう。私が一番であり続けると」


 私は負けるつもりはない。一番のまま、選ばれれば、私は本当はそこで生きていくはずだった国に行けるのだから。


 ◇


「飽きないな、クランさん」

「うるさい、オレ様はお前を負かせて一番になるんだ」


 私とクランはなぜか毎日一緒にいる。まあ、クランがくっついてくるから、放置してるだけだけど。私達二人でいれば、鬱陶しい弱いのが近づいてこなくて済む。他人にかまっている暇なんてない。

 ないはずなのに、クランだけは違った……。

 赤い花が咲く、人があまりこないこのお気に入りの場所まで彼はついてきた。

 二人きり、ちょうどいい。そう思って私は彼に切り出した。


「ねぇ、クランさんもあの国に行きたいの?」


 クランはまた大きく目を開く。青い瞳が揺らぐのがわかった。


「オレ様は――、ん、も?」


 より大きく開く目はいよいよ飛んでいきそうだ。


「もうこの姿は疲れた……」


 本当の自分を否定したくない。だから、私は自由になりたい。

 クランの前で魔法をとく。あとで怒られるかもしれない。だけど、そうしたのは、何故だったんだろう。


「カラーリャ」


 これが私なんだ。この姿が。


「あーーーっ! オレ様も一緒に怒られるか」


 そう言って、クランも魔法をといた。とても見知った顔だった。この国の王族の顔立ち。


「オレ様達はこれで共犯。相棒決定だ」

「なぜ……」

「一緒に行こうぜ。あの国に。自分のままでいられる国に」

「……そう」


 別に一番でなくても可能性はあるんだ。だから、こだわる必要はなかった。だけど、一番で居続けたのは、彼に追いかけて欲しかっただけだったのかもしれない。

 私を追ってきてくれる、クランという人を。

 どこまで追いかけてきてくれるのかを知りたくて――。


 ◇


「私が一緒にですか?」

「あぁ、カラーリャ君は学園で一番優秀だからね」


 学園に依頼がきたそうだ。他国で大きな儀式をする。その魔法を手伝う役目。


「わかりました」


 数日、離ればなれになってしまうことに心がチクリとした。


「一緒に行けたらいいのに」


 口から私の心がこぼれ落ちた。

 あの日、弱いところを見せあい、話し合った。彼も同じように感じていた。

 それから私の中で彼の存在はどんどん大きくなっていく。私が弱くなっていく。もし、一番でなくなった時、クランは私を追いかけてきてくれるのかな。


 ……いってきます――。


 ◇


 これがカラーリャの残されていた記憶カケラ

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