ヨウのいる場所は

「離宮……?」

「はい」


 学園から戻り、すぐに大きな屋敷に連れてこられた私達。


「お二人には、ここで暮らしてもらいます」


 クナがそう言って、目の前の屋敷を説明をしてくれた。


「大きいお屋敷ですね」

「ゆあちゃん、私もいいの?」

「何言ってるの、すずちゃん。私達、これからもずっと一緒にいようよ。この世界にたった二人しかいない、もとの世界の友達だよ」

「……、うん、そうだね。ありがとう」

「でもさ、どうするの? 彼は」


 二人でヨウを見る。招かれざる客なのは明らかだ。彼はいったいどうすればいいのだろうか。

 クナは気にせず建物の中へと進む。

 そして、ある場所で歩みを止めた。


「ヨウをどうするか、鈴芽様はお決めになられましたか?」

「あの、どうすれば――」

「すずと同じ部屋でいいぞ。ボクは」

「だから、ヨウは!」

「鈴芽様、責任を持って――」


 クナがじっとこちらを見てくる。ちゃんと、見張っておきなさいということか。


「わかりました。同じ部屋で大丈夫です!!」


 牢に連れていかれたら困るし、しょうがないよね。いざとなったら猫にすればいいよね!? と、心の中で何度も自分に言い聞かせた。

 なんだろう、捨て猫を拾ってきて、母親に必死に飼っていいか確かめてる気分だ……。


「すずと一緒。一緒かっ!」


 すごく嬉しそうにする彼には悪いけれど、1日中、猫として過ごしてもらうことになるかもしれないんだけど、大丈夫なのかな……。


「私が交代でヨウさんの面倒みようか?」

「「え?」」「は?」


 結愛の提案に全員が首を傾げる。


「あ、猫だったら、飼ってたことがあるから、私でも面倒みられるかなって」

「なりません!」


 クナがブンブンと首をふる。


「え、でもすずちゃんには……」

「う……、ですが」

「あの、大丈夫だから。ね、ヨウ」

「あぁ、ボクはすずがいいから」

「そっか、そうだよね」


 ほっと胸を撫で下ろすクナを見て、結愛が少し複雑な顔をしていた。

 私の事助けようとしてくれたんだ。結愛の優しさに嬉しくなって、少し涙が出そうになるのをこらえる。


「ここが結愛様の部屋になります」


 とてもきれいな部屋で、いいんですか? と聞きたくなってしまいそう。


「急に揃えた物ですが、服もございます。後日、体に合わせた物を用意させていただきます。制服は先ほど調べたサイズで、すでに用意しておりますので、朝の支度の時に持ってまいります。鈴芽様は、反対側のお部屋になりますので、結愛様はお休みされますか?」

「いえ、すずちゃんのお部屋も見ておきたいです」

「かしこまりました。こちらです」


 クナはまた廊下に出て、来た道を反対方向に歩きだす。同じようなドアなので間違えてしまいそう。私は通りすぎるドアの数を数えていた。


「こちらが鈴芽様のお部屋です。結愛様と同じですが、家具等は反対に配置されています。ヨウの服等は必要でしたら、用意致しますのでおっしゃって下さい」

「ありがとうございます。本当、反対になるだけで印象がけっこう変わるね」

「うん、でもベッド……ひとつだよ? どうするの? すずちゃん」

「うん……、それはさ」


 こそこそと結愛の顔の近くに寄って話す。


「猫になってもらおうかなぁっと」

「そうだよね、そうなるよね。猫なら別に一緒の部屋でもいいのに、なんで駄目なんだろう」


 結愛はきっとわかってない。テトがあなたの事を見る時の目。好きだって思ってもらっている気持ち。クナはテトの好きな人を他の男の人と相部屋になんてさせられないって、思っているんだろうな。


「私が連れてきたんだから、責任とらないとなんだよ。ゆあちゃん、ありがとう。頑張ろうね」

「すずちゃん、うん、頑張ろう。もしかしたら、帰れるようになるかもしれないしね」

「うん、そうだね」


 私達は部屋の説明や、どう過ごすか確認をして、いったん別れた。

 部屋に入って、大きく息を吐いた。


「疲れた……」


 ドアにずるずると背中をつけて、座り込む。

 なんだか、一気に何かがのし掛かってきたみたい。


「なんだろ、眠いや」


 体操座りで頭を膝にくっつけると、意識がふっと飛んでしまった。

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