セレ

「ふぁ!!」


 何分寝ていたんだろう。急に覚醒した私はキョロキョロとまわりを確かめる。

 床で意識をなくした気がするけれど、いま私がいるのはふかふかのやわらかいベッドの上。真っ白なシーツが気持ちいい。


「気がつきましたか、です?」


 少ししわがれているが優しく響く声が耳に届く。目を向けると、声に似合わず可愛い同い年位の薄い茶色の髪の女の子がいた。


「えっと、どなたですか?」

「はいです! 私はセレです! 鈴芽様の専属侍女です!」


 ピシッと背を伸ばし挨拶するセレと名乗る女の子は、てきぱきとタオルや水の用意をしていた。


「少し汗をかかれていますのでこれを。あとは、お水も飲んで下さいです」

「ありがとうございます」


 小柄な彼女がここまで運んだのだろうか? そういえば、ヨウが見当たらない。


「あの、ここまで運んでくれたのは誰が? あと、ヨウはどこにいるか知ってますか?」

「はいです! ヨウ様が結愛様の部屋まで鈴芽様を運んできて、結愛様にどうしたらと焦って聞いておられました。すぐに私がこの部屋の担当を言い渡され、今現在に至りますです。ヨウ様は、扉の外で立っておいでです。たぶん――」


 私は、ぱっと立ち上がりドアをそっと開いた。


「すず!」

「ヨウ」

「大丈夫か? どこか痛いところは?」

「ありがとう、ヨウ。大丈夫。心配させてしまってごめんなさい」

「そうか! 大丈夫ならよかった」

「優しいね、ヨウは」

「すずが大好きだからな」

「ありがとう」


 こんなに懐いてくれるなんて、思ってもみなかった。一人で逃げようと思えば出来ただろうに、わざわざ心配してくれて、なんだか私のお兄さんみたい。


「鈴芽様、お着替えしましょうです。お腹も空いているのでは? 用意してきます! です! ヨウ様も中に入って下さい。鈴芽様に何かあれば、ヨウ様もなんですよね?!」

「あ、あぁ、うん」


 ぐいぐいと押され、二人揃って部屋の中に戻ると、セレは私だけ奥の小部屋へと連れていく。服が並んでいるそこは、まるで控室みたい。


「これにしましょう! きっと似合うですよ!」


 セレが選んだのは薄い赤色のスカートだった。


「とてもきれいです! 鈴芽様」

「あの、その鈴芽様ってやめてもらっても?」

「ダメです! セレはお仕事なんです!」

「あ、ごめんなさい」


 私が謝ると、セレはにやりと笑って続けた。


「お仕事中はダメですが、仕事外のお時間だったら問題ないです!」


 彼女を見ると、嬉しそうに笑ってくれたので、私もうんと頷いておいた。

 しばらくして、出てこないことにしびれをきらせたのかヨウが突入してきたので、彼はセレにこっぴどく怒られていた。

 待てをいっておかないとなのかな、と少し困ってしまった。

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