魔法学園へ

「あれ? ユアは?」

「テトさん」


 テトが入ってきて、胸がドキンと跳ねる。

 彼の探している人が私ではないと分かっているけれど。

 あぁ、それよりも、この状況を見られてしまったことに戸惑ってしまう。


「えっと、何しているんだい? 鈴芽さん」

「これは、そのですね……」


 テトが入ってきたのはちょうど、私が猫吸いしようとしていたところだった――。

 何故、このタイミングなんだろうか…………。


「あぁ、なるほど。カイはもうそこまでしてくれたのか」

「はい」


 赤面しながら、説明をする私の横で解除が済んだヨウがはぁとため息をつく。

 私には姉がいて、彼女に動物のアレルギーがあったのでうちでは動物を飼う事が許されていなかった。

 憧れていたけれど、姉の為にその気持ちは忘れようと思っていたけれど、目の前に、手の届くところにいるというこの状況で、我慢できなかった。

 ヨウに、一回だけ撫でさせてとお願いして変身してもらったのだ。その手触りやあったかさでつい、その、顔が引き寄せられたというか、なんというか……。


「私が二人とも案内してあげたかったんだが――」

「え……?」

「鈴芽さんは私が案内してあげよう。きっと向こうでユアにも会えるだろう」

「はい!」


 思いもよらず、テトと一緒に行けるという事が嬉しくて、喜んでいるとヨウにほっぺたをぷにりとつねられた。その顔を見たテトがぷっと笑いだした。


「何するの、ヨウ!」

「さっきの仕返し」

「もぅ! ちゃんとお願いしたじゃない!」


 ヨウはふんっと鼻を鳴らし、横を向いた。


「あはは、そうやって見ているとそこまで危険な人物ではなさそうだな。ヨウ、君が模範的であれば金輪の封印のレベルを下げよう。それは数があまりない貴重な高等封印具だからね」

「本当か! なら今すぐ――」

「もう少し様子を見てからね」


 テトは笑いながら、椅子から立ち上がる。


「さぁ、行こう」

「はいっ」


 彼が手を出してくれる。この手を、私が繋いでもいいの?

 おずおずと手を出そうとすると、ヨウが私の手を引っ張る。


「…………ハツっ!」

「なっ――!!」


 私は、ヨウをまた猫化させる。ごめんねと心の中で謝りつつ私はテトの手をとった。


「学園に行くなら変身しておかないとですよね」

「あぁ、そうだね。では、行こうか」


 さっと、扉を開きエスコートしてくれる彼にドキドキしながら、私は小走りで追いかける。

 その後ろを、少し怒ったサビ猫のヨウが追いかけてきていた。途中、テトの足と私の足の間に入ってきて踏みそうになり、かなり危なかったけれど、無事学園へとたどり着いた。

 驚いたのは、魔法で移動が出来る場所だという事だった。

 まず、連れて行かれたのは、別の一室。

 そこには、大きな鏡がいくつも並べてあった。

 テトが手を添えて、カイのように何かを呟くと触れていた鏡の向こう側に大きな建物が写ったのだ。


「繋がった、さあいくよ」

「えっと、行き止まりですよ?」


 テトはふふっと笑って、手をぎゅっと握り引っ張って行く。

 ぶつかると思ったのに、その衝撃はなくて空気の流れがふわっと変わった。なんだか、とてもいい匂いがする。建物の前に広がる花が咲き誇るフラワーガーデンからの香りだろうか。


「ここがナグカルカ魔法学園。国の名前を抱いている通り、国一番の学舎まなびやだよ」

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