変身

 カイにまた、選択を迫られる。決めたばかりなのに、そんなにもここ人の国では、彼ら魔人は嫌われているのか。


「……捨てる選択」

「そんな事、すずちゃんにさせられるわけないでしょう! 彼はすずちゃんを助けてくれた人なんだよね? そんなことを言うような人から、私、学びたくありません」

「ゆあちゃん……」

「結愛様、あまりわがままを言われますと、……」


 背中がぞくりとする。あの時のフェレリーフと同じ顔だ。この人達が欲しいのは、言うことを聞く、従順な聖女なのだ。もし、そうでないなら――。


「ゆあちゃん、大丈夫だから、私。この人が苦手だって言うなら、しょうがないよ。だからね、ゆあちゃんはもう聖女の歌が出来るんでしょう? だから、少しでもはやく魔法を覚えて欲しいんだよ。テトさんだってそう思って、ゆあちゃんに特別に教師をつけてくれたんじゃないかな」


 早口でそこまで言うと、カイが正解ですと言いたげな顔で笑っていた。


「でも……」

「結愛様、勘違いしないで頂きたい。先ほど鈴芽様もおっしゃったように、私はあくまで特別教師であり、ナグカルカ魔法学園での授業等はともに受けることが出来ますよ。そのあとで別に追加授業があると思っていただければ――」

「あ、……そうなんですか。私はてっきり……」

「テトさんは言っていたじゃない。二人とも学べるようにって」

「そっか、そうだったね」


 結愛が納得してくれそうなので、ホッとしながら私は大きく息をはいた。


「鈴芽様、その者を学園で連れてあるくおつもりですか?」

「え、あ……」


 どんなところかもわからない。どう答えればいいのだろう。


「ボクはすずについていく。いつでも一緒にいる」


 なかなか答えない私に業を煮やしたのかヨウがはっきりと答えた。

 カイはその答えを聞き、私とヨウのところに歩いてきた。そして、ため息をしたあと、小さく何か呟いた。


「何を――」


 聞こうとしたその時、後ろに立っていたはずのヨウの影がすっと消えた。


「ヨウ?!」


 急いで後ろを向くと、そこには赤茶色と黒色の毛のサビ猫ちゃんがいた。その子の耳の間に金輪のついた小さな漆黒の角がみえる。


「にゃぁぁん」

「え、ヨウ?」

「彼に何をしたんですか?!」


 私が猫に手を伸ばしていると、結愛がカイに詰め寄っていた。


「この姿なら、歩いても怖がられないでしょう? 鈴芽様は、これを――」


 そう言って手を引っ張られ上にポンと何かを置かれた。黄色い小さな宝石のついた指輪だった。


「こう唱えれば、中に封じ込めた魔法が発動解除できます。発動はハツ。解除がカイになります。鈴芽様の責任で彼をきちんと管理してください」


 カイは離れると指輪をつけろと手で指示した。大きいので、中指にはめてみるとちょうど良さそうだった。

 指輪をヨウと思われる猫に向ける。


「カイ!」


 その言葉に反応するように、すぐにサビ猫は消え、ヨウが姿を現した。


「良かった」

「いや、良くないし……」

「ほう、では学園にいる間は牢で繋いで――」

「あ、あ、ありがとうございます。カイさん! ヨウ、一緒にいられるんだから、ね?」


 不服そうな顔を浮かべるけれど、一度ため息をついてヨウは頷いた。


「わかった。すずと一緒にいられるなら……」

「それではさっそく、結愛様は私が学園をご案内します。鈴芽様はここでお待ち下さい」


 カイは結愛の手を引き、部屋の外へと出ていった。

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