教師カイ
広い部屋に通されると、私と結愛はとても美しい装飾の椅子に座らせられる。ヨウはまるで私の付き人、マネージャーみたいにぴったり後ろにくっついて立っている。
「なんだか、テレビに出演とかよりもドキドキするね」
「ゆあちゃん、ドキドキレベルが違いすぎるよ」
「そうだよね。テレビは夢だったけど出てみたらそこまでだったし――。国で一番偉い人だよね。今から一緒に過ごすのは――。すずちゃん、私達、この国のトップアイドルになるんだよね」
「あ、えっと、そうなるのかな?」
歌を歌うから、アイドル? なのかな。うーん、よくわからない。
「なぁ、すず。アイドルって何だ?」
「……んー、アイドルって言うのはね、歌を歌ってとか、踊りを踊ってとかその人の魅力で、たくさんの人に喜びや感動してもらう事をする人。そして、その人達から好かれる人のことだよ」
「そっか、よくわからないがすごいんだな。確かに、すずの歌で、元気になったしな!」
口元をきゅっとあげて笑う、ヨウ。
そう言ってくれるとすごく嬉しい。
前に一度、麻美から見るなって言われてた他人からの評価。
私だけめちゃくちゃに嫌ってる人のSNSコメントを見てしまった。
あの言葉がずっと頭から消えてくれなくて、目の前にいる全員がそう思っているんじゃないかって、ずっと不安で仕方がなかった。
「すずちゃん」
「すず?」
「あ、ごめんね。少し、あっちの世界の事を考えてた」
「そうだよね。お母さん達、心配してるよね」
「その心配はありません」
バタンと扉を開けてやってきたのは、眼鏡をかけたいかにも出来る男といった出で立ちの人だった。
線が細く、背が高い。切れ長の目はこげ茶色。髪の色は茶色が強い赤毛だ。
「この世界からも、向こうの世界に飛ばされた者達がいるのです。魂の均衡を保つために、三人」
「え……」
「誰がいなくなったのか、まだ調べはついていませんが、あなた方の世界で生まれ変わった者達が空白を埋めるように同じ立場になっているはずです」
「そんな……」
「そうですか……」
結愛はとても冷静に受け止めていた。目が遠くを見ている。
自分の戻る場所はすでに違う人が居て、戻る必要がない。そんな、恐ろしい話を結愛は何とも思わないのかな。
「おっと、自己紹介が遅れました。私は、この国で魔法の教師をしている、カイ・ルーガ・ナハトラです」
眼鏡をかけた男は丁寧に結愛に向かってお辞儀する。
「先生ですか」
「はい」
とても綺麗な顔で笑う、カイ。年齢は若そうに見えるけれど、いくつなのかな。テトより大人っぽいけれど。
「結愛様の専属になります」
「私だけですか?」
「はい」
結愛がこちらを見る。
「すずちゃんは?」
カイはこちらを見て、その笑顔を崩した。まるで、汚いものでも見てるように、片方の眉が上がった。
「結愛様、申し訳ございません。もう一人の少女は魔人を連れていると聞きます。その後ろのフードの男ですよね? 私は魔人の事がとても嫌いですので、正直に申しますと、切り捨てる選択をしていただかないと鈴芽様に教えるのは無理です」
そう言って、彼は先ほどの笑顔に戻った。
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