一人になった日◆別視点(麻美)

 鈴芽が消えた。

 閉じ込めていた部屋から忽然と姿を消したそうだ。

 こんな場所で訳もわからず一人で逃げて、生きていけると思ってるんだろうか。本当、鈴芽は浅はかだ。

 まあ、しっかり考えてくれる人だったら、自分の下手さを無理に押し付けず、ユニットからもっとはやくやめてくれていただろう……。もっと、違った未来があったかもしれないのに、そう考えるとイライラしてしまう。


「行き先もまったくわからず、探すのは難航している」


 リオンは鈴芽を探している。無能だと言っていたのに、なぜそんなに探そうとするのだろう。

 正直、そのままいなくなって欲しい。鈴芽だけやめてと言ったその日に仲良く助け合って生きていきましょうなんて、言えるわけがない。結愛だって、鈴芽の事ばかり心配して……。


「……そうですか。でもそれでよかったかもしれません。私、彼女に嫌われていましたから……。近くにいると、衝突ばかりしてしまうかもしれませんし」

「何、そうだったのか。それは気がつかなくてすまなかった。アミ」

「いえ、リオンは悪くありません。私が悪いのです……」


 泣く真似事をすると、リオンは優しく私を包み込んでくれた。

 ここは、私のいた世界とは別の世界。異世界とでもいうのだろうか。

 リオンは今いるこの国の王子様で、私の後見人。


「結愛はナグカルカに向かったのですよね」

「あぁ」

「私、一人で寂しいです。出来るだけ、リオンのお側にいさせて下さい」

「もちろんだ」


 美しい容姿、地位の高そうな人物、私は空気を読んですぐに取り入った。正解だった。芸能界で生きていくためにつけた力がこんなところでも生かせるなんて……。彼に見えないように下を向きふっと自嘲の笑みを浮かべる。


「捜索は続けるけれど、見つけてもアミに近付かないように気を付けよう」

「お心遣いありがとうございます」


 結愛の事は嫌いではない。けれど、鈴芽は嫌い。私は、彼女が大嫌いだ。おどおどして、私の顔色を伺って。それに――、自分の力に気が付かずわざと引っ込めるように歌う。最低だ。

 アイドルとして頂点を目指すには、時間が迫っていた。もう残された時間はほんの少し。大人になっていくほど頂点は遠退いていく。

 私の夢を邪魔していた彼女は、この世界で、一人落ちぶれてしまえばいい。

 私はこの新しい世界で、光り輝くの――。


「アミ、怪我をした民はまだたくさんいる。聖女としてすべての民を癒してくれ。そして、この国を守ってくれ」

「わかりました――」


 リオンは笑顔を向けてくれる。この人を捕まえておけば、私はこの国で大切にされる。だって、彼はこの国の頂点になる人なのだから。

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