一緒に入ろう?
「ここはね、ファイスヴェードっていう国なんだって」
「ファイスヴェード……」
そんな国の名前は聞いた事がない。でも、聞いた事があるのは、そう、麻美の手をとった彼が名乗った名前が……。
「リオン・ヴァン・ファイスヴェード、あの人がこの国の王子で、王様はリンシール・ヴァン・ファイスヴェードって名前なんだって。あと、リオンのお姉さんがフェレリーフ。で、すずちゃんは、ファイスヴェードって国、聞いたことある?」
私は首を横にふると、そうだよねと彼女は苦笑した。
「ここは私達の住んでた地球とは違う場所なんだって……」
「地球じゃない……って、どういうこと」
お茶みたいな飲み物をコップで渡される。牢にいた時に飲んでいた物とは違う香りがした。結愛はコップを受けとると、持ってきた人にありがとうと伝えていた。私も遅れて感謝を口にする。
ヨウは、匂いをかいで嫌そうな顔をしながら飲んでいた。
今、私達の近くには結愛が怪我を治した人、(クナさんというらしい)とヨウの二人だけが座っている。
他の人は、テトを含め皆少し離れた場所にいる。移動式住居だろうか、テントのようなものがいくつか並んでいた。
「とても理解しがたいのだけどね、――」
この星は地球みたいな呼び名はない。今いる場所は【ファイスヴェード】。テトはその隣国【ナグカルカ】の王子。そして、もうひとつ接する国がある。魔人の国【セキドガーグ】、たぶんヨウの帰りたい場所。
魔人の国で今、次の王を決める争いが起きているそうで、接する二つの国は魔人の王を決める争いの的になっているということだった。陣地取り合戦だろう。どれだけ領土を広げられるか、手柄を立てれば王になれるとかそういう感じの。
魔人は強い魔法の力があって、対抗手段はあるけれど、ただの人ではどうしても劣勢になりやすい。そこで、強い力を持つ人を召喚したというのだ。魔人が苦手とする聖なる結界を作り出し、癒しの歌で怪我を無限に癒すことができる。それが聖女と呼ばれる、異世界の乙女。
過去に同じような争いが何度もあり、神に祈りを捧げた王達が聖女を召喚し、魔人の進行を食い止めたのだそうだ。
今回も同じように、聖女を召喚して、何とかしてもらおうと、二つの国は合同で儀式を行ったそうなの。一つの国がそれぞれ行うよりも確実に来てもらえるようにって……。
「意味がわからないね」
「そうだよね……。迷惑な話だよね」
二人で、ため息をつく。クナはそれをみて申し訳なさそうにしていた。ヨウは興味しんしんで耳をこちらに傾けている。たまにリスをくすぐっているのが見えた。
「ここから、とてもショックを受けると思うのだけど、伝えておくね。もとの場所、日本には帰れないんだって」
「え……」
「召喚の仕方は過去のものがあるけれど、戻る方法はないんだって」
「そんな……」
私の目が熱くなる。また、こぼれ落ちそう。そう思っていたら、ヨウが立ち上がりぎゅっと抱き締めてきた。
「他のヤツのいるところで泣くな」
そう言って、彼の服に私の顔を押し付ける。
「何それ、意味わかんない」
ぎゅっと押し返して、私は結愛の方を見た。ヨウの突飛な行動で涙は引っ込んだみたい。
ヨウは座っていた場所に戻って、何事もなかったようにまたあぐらをかく。
「すずちゃん、大丈夫?」
「……うん。ゆあちゃんは受け入れられたの?」
「……私は、まだ」
「そっか、そうだよね」
「でも、助けて欲しいって、頼られているから、彼の国に行こうって決めたの。この国はあみちゃんが担当するからって……」
「そうなんだ」
「それでね、テトにすずちゃんを一緒に連れて行きたいってお願いしてたの。テトはすぐ掛け合ってくれていたのに、返事がなくて――。というか、はやく自分の国に帰ったらどうですかって言われたんだって――」
フェレリーフの言葉を思い出す。彼女はそんな事、一言も言っていない。
「おそらく、自国の予備として鈴芽様を置いておきたかったのでしょう。一人より二人……、数が多い方が安心しますからね。せっかく召喚した聖女を他の国に持って行かれては、と」
クナは「よっ」と言って、片足に手をつきながら立ち上がった。
「鈴芽様がこちらにこられたのなら、これで結愛様も移動出来ますね?」
「……はい」
「湯浴みの用意をしましょう。向こうでは毎日入るのでしょう?」
「お願いします」
「かしこまりました」
クナが皆のいる場所に向かった。
「すずちゃん、一緒にお風呂はいろう」
「うん」
ぱっとヨウが顔をこちらに近付ける。
「ボクも一緒に入るぞ」
そんな事を言うものだから、私と結愛は二人で目を大きくしていた。
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