最終話

 そしてその翌日からも、加賀美を連れまわしてあらゆる場所を巡った。


 そして加賀美が学校に来る最後の日。色んな所を回った後、俺は何となく公園に連れてきていた。


「公園ですか?」


「最後だからな。どこかに座ってゆっくり話そうと思ってな」


 明日は土曜日で、恐らく加賀美の家に行くことは叶わない。つまり今日がタイムリミットってわけだ。


 俺はと加賀美は近くの草むらに腰かけた。


「今週どうだったか?俺と毎日デートした気分は」


「本当の彼氏彼女みたいな幸せな時間でした」


「一応付き合ってはいるんだがな」


「そうでしたね」


「まさか俺が千佳の事を嫌いって分かってて告白してくるとはな」


「それでも晴さんと付き合えるのですもの」


「あの時の俺はどうかしてたよ」


「そのお陰で私は救われましたけどね」


「お前と付き合う中で嫌いになった理由を見つければって思っていたんだが」


「見つけられなかったんですか?」


「いや、何となくわかった」


「どうしてだったんですか?」


「それに関しては言えないな」


 これを言ってしまうと今までの全てが無かったことになる。


「賢明ですね」


「流石加賀美千佳様だ」


 そんな気はしていたよ。



「俺と一緒にいるときに見せた表情や感情、半分くらいは嘘なんだろ?」


「そうですね」


「何となくそんな気はしていたよ」


 恐らく加賀美にとって俺が俺である必要は無かったが、俺以外に存在しなかったのだろう。


「それでもあなたが好きだという事実に間違いはありませんよ」


「知ってるよ」


 その言葉に加賀美が笑い、少しの沈黙が生まれる。


「重苦しくなりましたね」


「そりゃあ別れの時なんだから重くなって当然だ」


 加賀美は何かを決心するかのように、口を開いた。


「晴さん」


「なんだ?」


「私の事は好きですか?」


「いや、全く。それは変わんねえよ」


「そうですか」


「だが、お前とずっと一緒に居たとしても悪くねえとは思うようになったよ」


 加賀美は驚きの表情で、こちらを見る。


 よく見ると少し泣いているようだ。


「いいぞ」


 加賀美は俺に抱き着いてきた。


 最後くらい、そうしてやろう。


 少し経った後、いつも通りに戻った加賀美は、少し距離を置いた。


「すっきりしました」


「そうか」


「出来ればずっとこうしていたいと思うのですが、これ以上やると抜け出せなさそうです」


「それでもいいんじゃないか?」


 その言葉に対し少し考えた後に、


「駄目ですね。目標は達成できなかったのですから」


 言葉とは裏腹に、満面の笑みでそう言った。


「それもそうだな」


 加賀美が言うならそれでいい。


「じゃあ帰るか」


「そうですね」


 俺は最後だからと加賀美の家まで送っていった。


 だからと言って何か特別な話をするわけでもなく。


 ただ落ち着いた空気が流れていた。


「ありがとうございました。晴さん」


「こちらこそ」


「じゃあまたな」


 そして俺と加賀美の最後のデートは終了した。


 そして月曜日、クラスの人たちには転校したという事実のみが告げられた。


 衝撃の事実に皆驚きを隠せないようだ。


 それでも大多数の生徒はそれを受け入れ、仕方が無いことだと割り切っていた。


 割り切れなかったのは一人だけ。


 小野田環だ。


「どうして私に言ってくれなかったんだろう」


 その放課後、3人だけが残った教室で小野田さんがそう呟いた。


「さあな。俺にも理由は分かんねえ」


「千佳ちゃんって本当は私の事は好きじゃなかったの?」


 加賀美は面倒なことを押し付けて去っていきやがって。


『恐らく私が転校していった際、環はとても悲しむわ』


『だから二人でどうにかしてあげてください』


 最後の帰り道で、俺が加賀美に頼まれたことだった。


「そんなことは無いよ。いつも千佳は小野田さんの事を気にかけていた」


 それこそ俺よりも優先度が高い時が多々あるくらいに。


「それに、何かあったら連絡取れるだろ」


 加賀美はあまり携帯電話等で連絡を取ることが無い。必要最低限くらいしか使っていない。


 しかし。小野田さんの為とあれば何が何でも使うだろう。


「ほら、スマホが鳴ったぞ」


 不意に小野田さんのスマホが鳴る。


「千佳ちゃんからだ」


 中身を見ると、加賀美が海外に行ったことと、その写真が貼られていた。


「俺にもか。環をよろしくだってよ」


 そして俺には——


 当然何も来ない。


 それはそうだ。俺と距離を置くためなのだから。


「千佳ちゃんったら……」


 顔を膨らませて怒った顔をしているが、先ほどまでの気持ちが沈んだ小野田さんはどこにも無くなっていた。



 そして加賀美が居ないまま時は流れ


 俺たち三人は同じ大学を目指していた。


 そして合格発表の日。


「悠理、晴、早く結果見に行こうよ!」


 3人で大学へ行き、貼り出されたものを実際に見に行っていた。


「ったくわざわざ見に行くこたあねえだろ」


 環の発案によって、俺たちは合格発表をネットで見ることなく、はるばる東京まで見に来ていた。


 曰くこういうのは思い出なんだから見に行かないとダメ!だそうな。


 3人とも落ちるとは思っていないが、落ちることを少しくらい考慮しても良いんじゃないか。とも思ったが、環の勢いに押され、ここまで来ていた。


「まあまあ。見たら東京で遊べるんだから。ついでだよついで」


 そして結果は——


 当然3人とも合格だった。


 その後家族に結果を報告したのち、東京で遊んで帰った。


 そして大学に行く諸々の準備を済ませ、これから4年以上住むであろうアパートに着いた。


 これから新しい生活のスタートだ。


 部屋に届いた段ボールを順々に開封していると、ピンポンと音が鳴る。


 こんなタイミングで誰だろうか。


 俺は何の躊躇も無く扉を開ける。


「隣に越してきました。これはおすそ分けです」


 目の前に居たのは——


「久しぶりだな」


「ええ。悠理さん」


 そう、俺の恋人の加賀美千佳だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

この世で一番嫌いな自慢の彼女 僧侶A @souryoA

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ