第35話
「今日はここだ」
今回連れてきたのはゲーセン。ここは七森たちのいる場所ではなく、うちの高校の最寄りのゲーセンだ。
俺たちがよく遊んでいた格闘ゲームの品ぞろえは少ないが、クレーンゲームやガンシューティングゲーム等が豊富で、カップルで来るには都合がよい場所だった。
「どうせ千佳のことだ。あまりこういう所には来たことが無いんじゃないか?」
「千佳?ええ。学校帰りに通うことは無いですし、遊ぶと言ったらショッピングやスポーツが主でした」
「そういうことだ。後千佳呼びは気にするな」
最後まで加賀美呼びなのもアレだからそうしているだけだ。
「分かりました」
それだけで笑顔になるのならちょろいものだ。いくらでもやってやるよ。
「ここがゲームセンターですか。ついつい目移りしてしまいます」
初めてのゲームセンターに興味津々のご様子。この表情を見て、俺はここにまず誘って良かったと思った。
ここは違う場所だが、ゲームセンターはなんだかんだで思い入れのある場所だ。
たとえ嫌いな奴でも気に入ってもらえるだけで嬉しいというものだ。
「とりあえず何か一つやってみようか」
「そうですね。クレーンゲームがやってみたいです。これとかどうでしょうか」
加賀美が選んだのは大きいぬいぐるみが取れるタイプのものだった。
「このぬいぐるみが欲しいのか?」
「はい」
加賀美は熊のぬいぐるみが欲しいようだ。
「ひとまず自分でやってみて」
正直このクレーンゲームは初心者には厳しい気がするが、加賀美の場合お金を気にする必要は無さそうだし、問題ないだろう。
様子を見ていると、初心者相応の腕前といった感じだった。それでも何も分からないとかそういうレベルでは無かったので上手くいけばとれるだろう。
「難しいですね……コツとかってあるんでしょうか」
正直クレーンゲームは超上級者じゃないと運ゲーだからなあ……
それでも少しでも確率を上げる方法位はある。
「俺もめちゃくちゃやってるわけじゃねえからアレなんだが、引っかけやすい所を狙ってやれば、アームの強さに関係なく取れるってのは良くある話だな。これで言えばここだな」
俺は熊の首に巻かれているリボンを指した。
「あと一つ言えるのは重心を考えるってことだな」
「分かりました。やってみます」
そのアドバイスを受けて数回チャレンジして、どうにか取ることが出来た。
「おめでとさん」
「ありがとうございます」
加賀美は熊のぬいぐるみをがっしり抱きしめていた。
可愛い系じゃなくて美人系の奴がこういうことをやっても案外似合うもんだな。
純粋にギャップとして映えている。
「せっかくだし俺もやるか」
少しクレーンゲームのゾーンを見回って、よさげなキャラクターもののぬいぐるみがあったのでそこに狙いを定める。
「じゃあ100円入れてっと」
俺はいつも通りに流れるようにディスプレイを狙おうとする。
ちょっと待って。ここでやるもんじゃねえ。
男友達とならともかく、彼女と来てやることじゃないだろう。
ほら加賀美も困惑していらっしゃる。
「ごめん間違えた」
さて気を取り直して再開。
結局いつもよりは回数はかかったが、無事に取ることが出来た。
取ったのは猫モチーフのキャラクター。世界的にも人気なアレだ。
「やるよ」
俺はそれをそのまま加賀美に渡した。
「良いんですか?」
「いいに決まってるだろ。最初から千佳の為に渡すために取ったんだよ。じゃなきゃ別んとこ行ってる」
「大切にしますね」
自分が取った時よりも嬉しそうにしてやがる。まあそんなもんか。
「じゃあ次はアレでもやるか」
加賀美がクレーンゲームをちゃんと楽しんでくれたということで普通のゲームをやらせてみることにした。
選んだのは一般的なシューティングゲーム。その中でもゾンビパニック系の物だ。
俺たちは個室に入り、100円を入れて起動した。
「どういうゲームですか?」
「ゾンビに向かって引き金を打つゲームだよ。ほら」
早速始まった。あまり説明が丁寧じゃないタイプのようだ。
「なるほど。これは爽快ですね」
加賀美は淡々と敵を打ち抜いていた。運動神経の良さが上手く作用しているようだ。
ゲームなんてやったことないって聞いていたが、飲み込みが速いし反射速度も申し分ないのでゲーム慣れしている人と大差ないじゃねえか。
その後もエアホッケーや某太鼓系音ゲー、コインゲーム等ありとあらゆる種類のゲームをして回った。
「今日はとても楽しかったです」
「千佳がそう言うなら良かった。駅まで送ってくよ」
千佳が乗る駅まで送り届けた後、解散した。
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