第23話

「ほら。あれだけ怖がっている人が居るってことは怖いじゃないですか」


「あれは悲鳴じゃなくて歓喜の声だよ」


 声の主は二宮花だった。自分のクラスであるという職権を乱用して楽しんでいるようだった。


「じゃあ次に行きましょう」


 何事もなかったかのように俺を引っ張る加賀美が連れてきたのは写真部の出し物のプリクラ撮影だった。


 女子生徒の間では取った後の時間が無限だから何でも出来るということで結構前から評判であり、案の定女子による大行列が出来ていた。


 ということで二人っきりで行列に並ぶのだが、つまりは会話を強制させられるということで。


「話聞いてますか?」


「聞いてない」


 スマホを見ることで避けようとしたが無駄なようだ。


「なんでこんなことやってるんだ?」


「楽しいからですよ」


「空しくなったりはしなかったのか?」


「いえ?大満足の反応です」


 こいつってMなのだろうか。怖くなってきた。


 そんな会話をしていると、ついに俺たちの順番が来た。


「いきますよー。はい、チーズ」


 見事加賀美の策略通り付き合って初めてのツーショットを撮ることになった。


 そしてノリノリで絵を描きだす加賀美。プリクラという浮ついたものに対してガチの画力を乗っけようとしていた。


「流石にプリクラに絵画を描く奴は居ねえぞ……」


 流石にツッコミを入れざるを得なかった。


「そうなんですか?プリクラには環と行くことはあったのですが自分で絵を描くという経験が無くて」


「にしてもだろ。小野田さんもそんな絵描いて無かったろ?」


「ピカソみたいな絵を描いてましたけど?」


 小野田環に絵を描かせてはいけないということはよく分かった。


「基本的に現代の遊びは小野田さん経由なんだな」


「そうですね。何よりも環と遊ぶのが好きでしたから」


 こいつ俺と出会うまでは本当に環しか見えていなかったんだな。


 というか環はこいつに好意を向けているはずだよな?あの裏表が一切無さそうな小野田さんがこれだけ一緒にいるってことはそういうことのはずなのに。


「環の事本当に好きなんだな」


「ええ、勿論。唯一の親友ですから」


「そうか」


 その後様々な出店を回り、俺の精神が散々疲弊したのち、文化祭終了の鐘がなった。


「とても楽しかったです」


 キャラに合わない裏表の無さそうな満面の笑みで言う加賀美。


「そりゃあ良かったな」


 たとえ加賀美が相手といえど楽しかったと言われると気持ちがいいものだ。


「じゃあ帰るぞ」


「はい」


 俺たちは自分たちの教室へと戻った。


 戻ったら、全員教室に居た。


「よう悠理。お前が見捨てた晴だよ」


「俺はいつでもお前の事を大切に思っているぜ。見捨てるだなんてなあ」


「剣でぶった切ってやろうか」


「ひゅうおっかねえ。んでどうだったんだ?」


 加賀美が後ろに居るのに聞いてくる。


「最悪の気分だった」


 あえて何も言わずにそう言ってみる。


「あ、めちゃくちゃトラブルにでもあったのか?」


 悠理にも人の心はあるので、後ろに居る女に気遣いのようなフォローをしようと試みていた。


「いや純粋に嫌だった」


 ストレートに言ってみる。驚いた悠理は俺の首元についていたネクタイを引っ張り、


「こんなところでそんなこと言っていいのかよ?嫌いなの隠してんだろ?」


「あいつ最初から知ってやがった」


「マジかよ」


「ということで改めてこいつが加賀美千佳だ」


「よろしくお願いします」


「おう、よろしく。別に俺はお前の事はどうも思ってねえからな」


「存じております」


「細かいとこは帰りにな」


「分かった」


 細かいところはクラスの中で話すもんじゃねえしな。


 それに、


「あんな明るく笑っている加賀美さん初めて見た!」


「流石晴!王子なだけあるわ」


 全く気付かなかったが、二人で文化祭を回っている様子をかなりの人数が目撃していたようで、その話が俺たちを知っている連中に広まっていたらしい。


 軽く加賀美を見ると、してやったりと言いたげな顔をしていた。


 ただ付き合っているだけでは別れてもおかしくないからと、外堀を一気に埋める目的だったようだ。


 俺は諦めてその評価を受け取ることにした。


 その後体育館に向かい、全体での表彰などが行われた。


 ステージ発表系は案の定俺たちのクラスが優勝し、委員長が表彰を受けた。


 ちなみに、出店等のその他の部門については、例の筋肉お化け屋敷が取っていた。


 表彰者から出展内容の解説をされており、事情を知らず怖がっていた女子が困惑し、それを知っていた人たちはそれを見て笑っていた。


 名実ともに注目を集めていたのは確実にあそこだろう。


 そしてそのままホームルームを終え、放課後となった。


 小野田さんは用事があるとのことで先に帰っていった。


「んで、事情を説明してもらおうじゃねえの」


 というわけで悠理による俺と加賀美への尋問タイムが始まった。


 といっても文化祭を二人でまわった時の話をするだけだ。


「お前結局バレてたのか。とんだピエロだなお前さんは。と言っても今回に限っては加賀美家のパワーが異常に高いから仕方ないんだろうが」


「ほんとだよ。こいつと付き合うって許可してしまったのが最大の敗因だよ」


「あら。酷いです。大事な彼女にそんなことを言うなんて……」


 わざとらしく嘘泣きをする加賀美。ぶん殴ってやりたい。


「ま、晴の選択に俺は関係ないし、どうなろうが面白いから良いんだ」


 そう言い切った後、真剣な顔をして加賀美に質問する。


「晴を調べたってことは俺も調べ上げてんだろ?どこまで知っている?」


 と。まるで人生がかかっているかのように。


「はい、全て存じております」


 悠理はそれを聞いて大きくため息をついた。


「それについてお前さんはどう思う?」


「別に構わないことだとは思いますが」


「ならいい。帰るぞ晴」


「分かった」


 俺たちはそのまま解散となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る