第22話

 あの犯罪の発生から約2時間が経っていたようで、現在は1時半だった。


 学校を歩いていると、呑気に飯を食っている悠理と七森たちがいた。


 こいつと二人っきりなのも少し面倒なので話しかけることにした。


「よお。晴さまのお通りだ」


「お前どこに行ってたんだよ?」


 悠理が至極真っ当な疑問を言う。


「家にスマホ忘れたから取りに帰っていた」


 流石に犯罪に巻き込まれたなんて言い方をすると、加賀美家とかいう戦うのも馬鹿らしい一族を相手取る結末になりそうなのでやめた。


「晴にしては珍しいな」


 七森は完全に信じているようで、素直に返事をしていた。そして、七森のその言葉によって他の奴らも納得したかのような反応を見せた。


 現状七森がボス格みたいなことやってんのか?騙されやすいから心配だな……


 と思ったら明らかに疑ってはいるが聞く気はない西野がいたので大丈夫そうだ。単にこいつが輪の中心にいるだけのようだ。


「そういうことか」


 俺がスマホを持ってきていることを当然ながら知っている悠理はそう答えた。


 まあ隣にいる加賀美の仕業だということは最初から分かっていたのだろう。


 後で問い詰められるかもしれないが。


「この人が例の彼女か」


 西野が俺の後ろにいた加賀美に興味を示す。


「加賀美です。よろしくお願いします」


「九条には勿体ないくらい美人で真面目そうな彼女だな」


 西野が俺をからかって言う。今までこういう系統の女と付き合ってこなかったからな。


「うっせえ」


 後ろでこないだはいなかった荒川勝がけらけらと笑っていた。


「何笑ってんだよ」


「いや、晴が王子の格好してこの人と公開でキスしたって事実を思い出すと…… 晴が白馬の王子様ってだけでも既に面白いのに……」


 確かにあの格好でキザなセリフ吐いてキスしたという構図は面白いが……


「実際どうだった?」


 七森が俺のそばに来てこっそりと聞いてきた。


「いうわけねえだろ」


 そもそもキスはしてないんだがな。


「そんなことは良いんだ。なんで悠理はあんな暴挙に出たんだよ」


 これ以上掘り返されるとキスしていないことがバレそうだったので強引に話題を変えた。どのみち問い詰める気だったので問題は無い。


「あっちの方が面白かったろ?」


 悪びれもせずに悠理は言った。


「相変わらず悠理のパワー凄かったよな」


「力技だが考えられていて非常に面白かった」


 七森と西野が悠理をほめる。


「悠理のパワーも良かったけど、困惑している晴が久々に見れて面白かった」


 北条まで……


「それに勝ったのは俺なんだが……」


「「素手じゃないからでしょ」」


 俺が勝ったことを表明したが、全員に同じ言葉で返された。そりゃあ素手じゃあ勝てないけれども……


「これからお二人さんは二人っきりで文化祭を回るの?」


 気を利かせた北条が俺たちの今後の予定を聞いてきた。


「いや、せ」


「その予定です。皆さんの悠理さんをお借りしますね」


 俺がこいつらと一緒に回ろうとしたのを遮って二人で回る宣言をしやがった。


「こいつらは俺が案内するから安心しろ」


 悠理がすごくいい笑顔でこちらを見てくる。カバーする気はないようだ。まあ分かっていたが。


 俺は加賀美に手を引っ張られ、連行されていった。


「さて、どこから回りましょうか」


 と楽しそうに言う加賀美の歩みに一切の迷いが感じられない。


「こことかどうですか?」


 と辿り着いたのはお化け屋敷。


「どこでもいいよ」


 ということで入ることになった。内装は思ったよりもしっかりしており、文化祭にしてはクオリティが高かった。


「雰囲気がありますね」


「そうだな」


 とは言いつつもお化け屋敷で怖がる年齢でもないのでサクサクと歩みを進めていると。


「フンッ!!!」


 という声とともに現れたのは巨大な筋肉。なんだこれ。


「きゃああああ」


 と叫びながら俺に抱き着く。本当に怯えているように見えるが、絶対にこいつは演技だ。


 その叫び声に反応したのか、続々と筋肉が集まってきた。


 そして無言で始まるボディビル大会のような筋肉の見せ合い。これは一体何をやっているんだ。逆に怖い。


 加賀美千佳はビビったふりをして顔を俺の体で隠しているのでこのシュールな光景は見えていない。つまり、ボディビルダーの体の動きによって発生する音のみがこの場所に広がっていた。


 その音は確かに普通のお化け屋敷と遜色ないと言っても過言ではない。


 その後数分この光景は続き、勝負が決まったのか筋肉たちは全員去っていった。


 女子が怖がって顔を隠した場合、音によって怖い時間は変わらない。男子は目の前に広がるシュールな光景に怖がることは無く、ただ株を上げる。

 そして女子が怖がらなかった場合は話のいいネタになり、会話が弾む。


 もしかしたらカップル向けに案外考えられているのかもしれない。


 ふと思い立ち、このよく考えられたお化け屋敷を作ったクラスを確認する。


 そこは鬼塚力豪と二宮花のクラスだった。


 なるほど。ただの性癖によって生み出された馬鹿の産物か。


 あいつらのクラスは、鬼塚力豪と二宮花に影響下で筋肉に対する愛が強い生徒が多いのだ。


 だからこそ、筋肉を合法的にアピールする場所としてお化け屋敷を選んだのだろう。


 たとえマッチョでも外で裸になって筋肉を見せつけていたら犯罪だからな。


「いやあ怖かったです。ここまで怖かったのは初めてです」


 わざとらしく腕を組んでくる加賀美。ここまで来ると清々しいというかなんというか。下がりきっている好感度を利用して好き勝手やっている。


「嘘つけ。お前はあんなので驚くわけねえだろ。ってかアレで大騒ぎする奴なんていないだろ」


 お化け屋敷の目の前だったが、このコンセプト的に言っても何も言われんだろう。と思いそう突っ込んだ。


 その後ろで。


「キャーーーーーーーー!」


 と大絶叫が聞こえた。

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